2023年10月27日金曜日

サントリー美術館「虫めづる日本の人々」40

『画本虫撰』はきわめてソフィストケートされた寛政の改革批判でした。いや、批判といえば強すぎます。ソフィストケートされた揶揄といった方がよいでしょう。そもそも虫狂歌合せの転用だったのです。これなら絶対幕府に気づかれません。たとえ気づかれても、申し開きはたやすかったでしょう。たまたま筐底に眠っていた虫狂歌合せを思い出して、出版しただけだと……。

それは南畝という天才が放った18世紀の、あまりにもロマンティックなさとり絵(風刺画)でした。19世紀に入ってたくさん生まれた直接的なさとり絵とは、類を異にするきわめて上質なさとり絵です。

しかしそんなことを知る必要はまったくありません。そもそもこれは饒舌館長の妄想と暴走に過ぎません。ただ心をマッサラにして、喜多川歌麿というもう一人の天才が創り出した絵画世界に沈潜する――これこそ『画本虫撰』最高の鑑賞法だといってよいでしょう。


0 件のコメント:

コメントを投稿

出光美術館「琳派の系譜」12

   乾山も兄に劣らず能謡曲を嗜好していたわけですから、それをみずからの作品に取り入れることは「当たり前田のクラッカー」だったんです。しかし「銹絵染付金銀白彩松波文蓋物」の場合は、能謡曲の記憶や思い出がかすかに揺曳しているような作品と言った方が正しいでしょう。  それは「高砂」の...