2025年6月19日木曜日

東京美術『日本視覚文化用語辞典』2

 本邦初の辞典がここに誕生したんです。しかも日本語のあとに、すぐれた英訳がついているから便利です。便利なだけじゃ~ありません。日本語と英語における視覚文化へのアプローチが意外に異なっていることが浮彫りになり、おのずとわが国視覚文化の特質といった問題へ導かれることになります。この質量と20年間の編集期間を考えれば、96800円という定価は決して高くありませんが、まずは図書館でぜひ購入してほしい辞典ですね。

10264項目の最初は「アーカイヴ」――「美術館などを含む機関などで記録を保存、活用することという意味に用いる」とありますから、僕が勝手に使ってきた「國華アーカイヴ」も間違いじゃ~ないことが分かってホッとしました。しかしそれは『國華』というアナログ雑誌に印刷されたアナログ図版のアーカイヴです。今やアーカイヴ=デジタル情報の保存公開だとすると、やはり「國華アーカイヴ」はガラパゴスかな()

 

2025年6月18日水曜日

東京美術『日本視覚文化用語辞典』1

 

東京美術『<和英対照>日本視覚文化用語辞典』

以下に掲げるのは、このたび東京美術から出版された『<和英対照>日本視覚文化用語辞典』の序文から引用した一部です。

本辞典の前身である『和英対照 日本美術用語辞典』が、文化交流の新たなステージにおいて国際的に資することを願って産声を上げたのは1990年のことであった。(略)

その後21世紀を迎え、日本における 「美術」 をとりまく状況は加速度的に変化した。 国やジャンルを超えた相互交流がこれまで以上に活発となり、「美術」という概念の境界線が曖昧となる一方で、マンガやアニメなど独自の進化を遂げた日本のサブカルチャーに世界的な関心が寄せられるなか、このような状況に幅広く対応した次世代の辞書が必要なのではないか――。こうした声が内外から聞かれるようになり、2005年、本辞典の改訂増補版を立ち上げるに至った。

2025年6月17日火曜日

サントリー美術館「酒吞童子ビギンズ」5

もう一つのメダマである住吉廣行筆の「酒呑童子絵巻」もチョッと見てみましょう。はるばるドイツのライプツィヒ・グラッシー民族博物館から飛んできてくれた、「酒呑童子絵巻」の別バージョンです。サントリー美術館本にはなかった、酒呑童子の生い立ちが詳しく描かれていて愉快です。しかし両者の関係については、これまた専門家に一任することにしましょう。

もっとも日本絵画史をナリワイとしている僕にとって、狩野探幽原本の模本とみられる「大江山絵巻」(逸翁美術館蔵)により、探幽の「瀟洒淡白」という特徴が今回はっきりと視覚的に認識できたことは大きな収穫でした。

このあいだ改めてレッシングの名著『ラオコオン』を読んだのですが、レッシングは異時同図法を「詩人の領域への侵害」であって「よき趣味」ではないと主張しています。ところがサントリー美術館本の酒呑童子をやっつけるシーンでは、異時同図法がとても効果的に使われています。それはレッシングの考えが間違っていることを、実証していると思います。

  ヤジ「オマエなんかがレッシングにケチをつけたところでどうなるんだ!!

 

2025年6月16日月曜日

サントリー美術館「酒吞童子ビギンズ」4

僕も赤羽末吉の『ももたろう』にプレイバックしたりしていました。赤羽末吉――すばらしい絵本作家ですね。彼を含めて、わが国の絵本は世界に誇るべき文化だと思いますが、そのオリジンが「酒呑童子絵巻」のような絵巻や御伽草子や奈良絵本にあったことは疑いありません。それは日本絵画史の大きな流れの一つだったのです。

「ごあいさつ」にあるように、現代のマンガやアニメもこれらの子どもたちなのですから、現代日本視覚文化のオリジンであったといっても過言ではないでしょう。しかしこれまた専門家に任せることにしましょう。酒吞童子の首をはねるシーンでさえ、現代のスマホゲームのように刺激的じゃ~ないかもしれませんが、絵とキャプションで酒呑童子の筋を追っていけば、とても上質な楽しみをしばらくの時間味わうことができるでしょう。


2025年6月15日日曜日

サントリー美術館「酒吞童子ビギンズ」3

 本特別展のメダマは、大修理を終え昨日描いたように新しくよみがえったサントリー美術館所蔵の重要文化財・狩野元信筆「酒呑童子絵巻」の全巻公開です。場面場面に簡にして要を得たお話のキャプションがついていますから、絵を見てそれを読み、読んでから絵を見てください。おもしろいことこの上ありません。

 狩野元信はかの狩野永徳のおじいさんにあたる画家で、中国画と日本画をとてもうまく融合して描いたことで有名ですが、この「酒呑童子絵巻」にもその特徴がよく現われています。しかし、そんな美術史専門家みたいな話はどうでもいいんです。

ともかくも絵とキャプションを見ながら、話の筋を追っていくことをお勧めしたいと思います。お母さんに絵本を読んでもらった子どものころが、懐かしくよみがえってくることでしょう。あるいは、お子さんにプレゼントした絵本のことを思いだされる方もいらっしゃるでしょう。

 

2025年6月14日土曜日

サントリー美術館「酒吞童子ビギンズ」2

酒呑童子の住処といえば、物語によって丹波国大江山、あるいは近江国伊吹山として描かれ、サントリー本は伊吹山系最古の絵巻として知られます。以降、このサントリー本が《図様のはじまり》となり、江戸時代を通して何百という模本や類本が作られました。 さらに近年注目されるのは、サントリー本とほぼ同じ内容を含みながらも、酒呑童子の生い立ち、すなわち《鬼のはじまり》を大胆に描き加える絵巻が相次いで発見されていることです。

本展では、これらの《はじまり》に焦点をあて、絵画と演劇()の関連にもふれながら、 酒呑童子絵巻の知られざる歴史と多様な展開をたどります。現代のマンガやアニメにも息づく、日本人が古来より親しんできた鬼退治の物語をお楽しみください。

 

2025年6月13日金曜日

サントリー美術館「酒呑童子ビギンズ」1


サントリー美術館「酒呑童子ビギンズ」<615日まで>

 お急ぎください!! 千載一遇、空前絶後、曇華一現の特別展です!! あとわずか3日間です!! サントリー美術館で開催中の「酒呑童子ビギンズ」がそれです!! まずは永久保存版にして残部僅少、終了後値上がり必至(!?)のカタログに載る「ごあいさつ」によって、その概要を知ることにしましょう。

 酒呑童子は、日本で最も名高い鬼です。 平安時代、都で美しい娘たちを次々に誘拐していた酒呑童子が武将・源頼光とその家来によって退治される物語は、十四世紀以前に成立し、やがて絵画や能などの題材になって広く普及しました。 なかでも、サントリー美術館が所蔵する重要文化財・狩野元信筆「酒伝童子絵巻」は、後世に大きな影響を与えた室町時代の古例として有名です。 このたびの展示では、解体修理を終えたサントリー本を大公開するとともに、酒呑童子にまつわる二つの《はじまり》 をご紹介します。 

東京美術『日本視覚文化用語辞典』2

 本邦初の辞典がここに誕生したんです。しかも日本語のあとに、すぐれた英訳がついているから便利です。便利なだけじゃ~ありません。日本語と英語における視覚文化へのアプローチが意外に異なっていることが浮彫りになり、おのずとわが国視覚文化の特質といった問題へ導かれることになります。この質...