そこでもう一つの代表歌である「きのふといひけふとくらして飛鳥川ながれてはやき月日なりけり」が基になっているというのがマイ見解です。月日の経過がいかに早いものか改めて驚いているのですが、人間が手を加えることができない自然に対する驚愕を詠んでいるといってよいでしょう。
そこでもう一つの代表歌である「きのふといひけふとくらして飛鳥川ながれてはやき月日なりけり」が基になっているというのがマイ見解です。月日の経過がいかに早いものか改めて驚いているのですが、人間が手を加えることができない自然に対する驚愕を詠んでいるといってよいでしょう。
前野直彬先生注解の『唐詩選』<岩波文庫>によると、「長楽少年行」の解釈は3つもあるそうです。しかし僕はいずれの解釈も腑に落ちず、先にアップしたような戯訳を作った次第です。
イナセな唐の若者が、日本でいえば吉原にあたる章台で馴染みの遊女と戯れましたが、乗ってきた馬の鞭をその枕辺に置き忘れてきました。鞭がなく馬がストを起こすので、鞭にするため近くにあった柳の枝を折り取ったところ、先ほど別れてきた遊女にもう一度逢いたくなったというのが、僕の解釈です。柳は別離の象徴ですが、「花柳界」という言葉があるように、エロティックなイメージも含む植物だったからです。
実はすぐれた北斎研究家であった永田生慈先生も同じ考えでした。すると阿倍仲麻呂も崔国輔の「長楽少年行」も、どこかに回帰する、あるいは理想とする場所に戻ろうとするというベクトルが同じで、ペアとするにふさわしいことになります。我らが日本と遊郭を一緒にしちゃ~、ちょっとまずいかな( ´艸`)
「少年行」は伝統的な歌謡の題名を継承する擬古楽府ぎこがふ、王維や李白の詩がよく知られていますが、この「詩哥写真鏡」のもとになったのは、同じく唐の詩人・崔国輔さいこくほの「長楽少年行」です。『唐詩選』に選ばれていますから、当時の知識人はみな馴染んでいた唐詩でした。またまたマイ戯訳で紹介しましょう。
珊瑚さんごの鞭むちをうっかりと 忘れて来ました枕辺に
だから白馬はわがままを 起こして一歩も進みません
仕方がないので章台しょうだいの 柳の枝を折り取れば
春の道端 花魁おいらんに ふたたび会いたくなってきた
しかも、源融は先の一首からも想像されるように、陸奥に関心を寄せ、塩竃しおがまの浦をしのんで難波の浦から邸内の池へ海水を運ばせ、塩を焼かせて楽しんだことになっています。異郷への興味という点で、日本へ関心を寄せた唐の皇帝や白楽天とも微妙に通い合うのです。さらに両者とも、月夜が重要なモチーフになっています。
「少年行×阿倍仲麻呂」は回帰ペアです。理想郷憧憬ペアといってもよいでしょう。阿倍仲麻呂については、説明の要もありません。留学生として唐に渡り、玄宗皇帝に寵遇されました。しかし望郷の念止みがたく、帰国を試みましたが海難のため果たせず、唐で没した天平貴族です。「天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも」は「百人一首」に選ばれて有名ですね。
白楽天が中唐の大詩人であることは、改めて言うまでもありませんが、作者不詳の有名なお能に「白楽天」があります。白楽天が勅命を受け、日本の知力を計ろうと船で渡来すると、住吉明神が老漁夫に姿を変えて応対し、ついに多くの神々とともに神風を起こして、白楽天を唐土へ吹き戻すという愉快なお能です。つまり「融大臣×伯楽天」はお能における日中ペアということになります。
先の5セットを改めて見てください。先にある図、つまり左にある図は、左上に題箋があります。一方×のあとにある図、つまり右にある図は、右上に題箋があります。したがってこのように組み合わせると、ちょうど双幅の落款がその外側にくるのと同じような感じになります。
また主題についてみると、日本主題5枚と中国主題5枚に分かれるのです。先の5セットをみると、すべて日本主題と中国主題の組み合わせになっていることが分かるでしょう。日本×中国か中国×日本かという違いはあっても、日中の組み合わせになっていて、日本×日本や中国×中国はありません。5番目の「清少納言×在原業平」は日本×日本のようにみえますが、これについては最後に説明しましょう。
吉田先生のおっしゃることは、当らずといえども遠からずかもしれません。風景版画の北斎・広重・巴水をたたえて3Hというそうですが、広重や巴水が好きな方は、「吉田先生の言うとおり!!」と拍手喝采をするでしょう。しかし北斎の「詩哥写真鏡」は傑作だと思っています。その理由を以下に述べることにしましょう。これまた独断と偏見かもしれませんが( ´艸`)
10図からなる「詩哥写真鏡」は、日本と中国の主題を組み合わせた2図の5セットになるというのがマイアイディアです。その5セットとはつぎのとおりです。
融大臣とおるのおとど×白楽天(「詩哥写真鏡」では「伯楽天」)
少年行×阿倍仲麻呂(「詩哥写真鏡」では「安倍の仲麿」)
春道列樹はるみちのつらき×李白(「詩哥写真鏡」では「春道のつらき」)
韓愈×木賊苅とくさがり
清少納言×在原業平
「 春道列樹 はるみちのつらき × 李白」は 対自然 驚愕ペアです。列樹は 平安前期の公家歌人、「百人一首」に採られる「山 川 やまがわ に風のかけたるしがらみは 流れもあへぬもみぢなりけり」が代表歌です。「詩哥写真鏡」 の <春道のつらき>もこの和歌に よると言われ...