渡辺京二『逝きし世の面影』(平凡社ライブラリー 2005年)
先に渡辺京二さんの『逝きし世の面影』から「ネコ」の箇所を引きましたが、この名著を改めて紹介したいと思います。1930年生まれの日本近代史家・渡辺京二さんが、近代以降の日本が失ってしまったもの――つまり幕末明治までは確かに存在していた我が国の美しさや素晴らしさを掘り起こし、その意味と背景を虚心坦懐に、一切の先入観なく考察した大著です。
その際、渡辺さんがとった方法は、幕末明治にころ我が国へやってきた異邦人による膨大な著作を渉猟し、それを素直に読み込むことでした。このような方法論の根底について、渡辺さんは次のように述べています。
滅んだ古い日本文明の在りし日の姿を偲ぶには、私たちは異邦人の証言に頼らねばならない。なぜなら、私たちの祖先があまりにも当然のこととして記述しなかったこと、いや記述以前に自覚すらしなかった自国の文明の特質が、文化人類学の定石通り、異邦人によって記録されているからである。文化人類学はある文化に特有なコードは、その文化に属する人間によっては意識されにくく、従って記録されにくいことを教えている。