2017年3月31日金曜日

サントリー美術館「絵巻マニア列伝」1


サントリー美術館「絵巻マニア列伝」オープニング(328日)

 今日からサントリー美術館で始まった「絵巻マニア列伝」は、たくさん絵巻物の名品を集めながらも、単なる絵巻名品展となることを厭い、まったく新しい切り口でその魅力を語ろうとする刺激的特別展です。

かつて東京国立博物館や京都国立博物館で開催された絵巻物名品展は、さすが国立博物館だと思わせる大規模な展覧会でしたが、それらとはコンセプトを異にしているといってよいでしょう。斬新なアイディアを、分かりやすい展示にまとめ上げた担当学芸員・上野友愛さんの努力をたたえたいと思います。

ピンクの表紙がこの季節にピッタリなカタログから、「ごあいさつ」の一部を掲げて、内容紹介に代えることにしましょう。 

本展では、後白河院や花園院、三条西実隆、そして足利歴代将軍など《絵巻マニア》とでも呼ぶべき愛好者たちに注目し、鑑賞記録などをたどりながら、その熱烈な絵巻享受の様相を探ります。マニアたちの絵巻愛は、鑑賞や蒐集だけにとどまりません。彼らの熱意は同時代の美術を牽引し、新たな潮流を生み出すエネルギーとなりました。有力なパトロンであった絵巻マニアたちの姿を追うことで、知られざる絵巻制作の実態と背景もご紹介します。 

 絵巻物のオリジンは「過去現在絵因果経」のような経絵にありました。もちろん、中国で生まれた様式であり、画面形式でした。これが我が国へ伝えられて、日本の絵巻物へと変身したのでした。

それは中国美術が日本化されて日本美術となるという、大きな潮流に棹差すものでした。しかし王朝文化の時代に入ると、もう日本独自の画面形式、あるいは様式画風といってもよいほどに、絵巻物はジャパナイゼーションが進みました。

それ以降、近代にいたるまで、絵巻物は日本人に愛され続けてきました。それはなぜなのでしょうか。私見では、日本の絵画が文学と、とくに物語や説話と分かちがたく結びついていたので、それを表現するのに絵巻物はとてもふさわしかったのだと思います。

物語や説話は、基本的に時間の経過とともにストーリーが展開していくものですから、横へ横へといくらでも続けることができる絵巻物は、とても相性がよかったにちがいありません。
 
*ここまではテスト版――いよいよ明日4月1日から、本当の「饒舌館長」が始まります。よろしくお願い申し上げます。

2017年3月30日木曜日

今村与志雄『猫談義 今と昔』


今村与志雄『猫談義 今と昔』(東方書店 1986年)と陸游のネコ詩(226日)

 かつて何かの必要があって、唐の段成式が撰した『酉陽雑俎』(東洋文庫)を手に取ったことがあります。『酉陽雑俎』はさまざまなおもしろい話を集めた逸話集のような本です。その翻訳者として、今村与志雄先生のお名前が深く胸底に刻まれました。

その博覧強記ぶりは、愛読する『酒の肴』や『抱樽酒話』を書いた青木正兒と甲乙つけがたく、ただただ感嘆久しゅうするばかりでした。お二人の学風はかなり違うと思いますが、博覧強記という点では軌を一にしています。

その今村先生に『猫談義 今と昔』という名著があることはどこかで聞いていましたが、美術史の論文やエッセーを書くために絶対必要というわけでもなかったので、ネコ派の僕もそのままにしていました。

ところが今秋、静嘉堂文庫美術館で明清画名品展を開くことが、去年早くに決まりました。当然、我が館が誇る沈南蘋の名品「老圃秋容図」にも登場してもらわなければなりません。これにちなんで、ネコの絵に関する館長トークをやってほしいと、担当の大橋美織さんから頼まれました。

二つ返事で引き受けたことは、言うまでもありませんが、今村先生がお書きになった『猫談義』を読まずして、沈南蘋や徽宗のネコを語ることは、とてもできそうにありません。早速、アマゾンで検索すると一件ヒット、即「1クリックで買う」ことと相成りました。

案の定、ものすごく濃い内容です。東方書院発行の月刊誌『東方』に連載した文章を中心にまとめた300ページほどの本ですが、今村先生の博覧強記振りに、改めて驚かないではいられません。

出光美術館「トプカプ・出光競演展」2

  一方、出光美術館も中国・明時代を中心に、皇帝・宮廷用に焼かれた官窯作品や江戸時代に海外へ輸出された陶磁器を有しており、中にはトプカプ宮殿博物館の作品の類品も知られています。  日本とトルコ共和国が外交関係を樹立して 100 周年を迎えた本年、両国の友好を記念し、トプカプ宮...