2021年12月13日月曜日

東京黎明アートルーム「浦上玉堂」5

 

    酒に酔って眠り、目覚めたときのアンニュイと、春という季節の物憂い雰囲気が、とても美しく綯い交ぜになって詠まれています。それにもかかわらず、玉堂の嗅覚だけは冴えていて、かすかなイラクサの香りにも鋭敏に反応するんです。

富士川英郎先生が、名著『江戸後期の詩人たち』を著わしてから、江戸時代の漢詩にたいする興味が掻き立てられ、そのソフィストケイトされた文学世界に熱いまなざしが注がれています。玉堂の漢詩は、そのような江戸漢詩の鬱蒼とした森を生み出す、緑豊かな大木の一本であったと思います。

そしてこの場合にも、基底に文字通りの漢詩――中国の詩に対する豊かな教養と深い尊敬があったことは、改めて言うまでもありません。

0 件のコメント:

コメントを投稿

東京都美術館「田中一村展」13

   もう一人、田中一村のすばらしさを、いや、すごさを私たちに教えてくれた恩人を忘れるところでした。 NHK 出版の大矢鞆音 ともね さんです。その大矢さんに『田中一村 豊饒の奄美』( NHK 出版  2004 年)というモノグラフがあります。その最後は「作品の中に深いかなしみと...