しかしここでは、僕の個人的思い出をアップすることにしましょう。文学部の教授会は、席が決められているわけではありませんが、おのずと指定席みたいなものができ上がってきて、池内先生と僕は向かい合って座るようになりました。教授会のあいだ中、先生はいつも校正をされていました。
あるときはカフカ、あるときはモーツァルト、あるときは山下清です。近世絵画史のことしか書いたことがない僕は、やはり世の中には天から才能を与えられたオールマイティ人間がいるんだと、驚きながら仰ぎ見ていました。
うわさでは、そのころ人気がなくなってしまったドイツ文学研究室を建て直すため、主任の柴田翔さんが、活躍を続ける池内先生を、都立大学からヘッドハンティングしてきたんだということになっていました。
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