2019年8月29日木曜日

三菱一号館美術館「マリアノ・フォルチュニ展」5


その絵画もじつに素晴らしいのですが、多くテンペラ画である点がおもしろく感じられました。フォルチュニは油彩画よりも、テンペラの方を好んだのです。油彩画と比べると、テンペラは乾きが速いために、色の面を平塗りにすることや、ぼかしテクニックを用いることが比較的むずかしく、おのずと線的描写が多くなるといわれています。これは日本画の性格とちょっと似ています。

フォルチュニのテンペラ作品を見ると、超絶技巧を身につけていたと思われる彼は、このようなテンペラの弱点をみごとに克服していることが分かります。しかし、フォルチュニが日本画に近いテンペラを油絵より好んだという事実――それを僕はとてもおもしろく思いながら、濃密なる会場をあとにしたのでした。


0 件のコメント:

コメントを投稿

鎌倉国宝館「扇影衣香」9

  先日、 鏑木清方記念美術館の「あの人に会える! 清方の代表作<築地明石町>三部作」展で井手誠之輔 さん にお会いしたことをアップしました。その井手さんが、この「扇影衣香」展カタログに、「総論 絵から見た鎌倉の美術と東アジア世界――人と仏――」という巻頭論文を寄稿しています。 ...