*速水御舟「今の私の気持」(『美之国』 昭和10年3月号)
此頃は筆を持つのに、以前と違って、「間伸び」があるように感じます。写生を離れて、書けるという気持で
す。以前は、写生したものに直ぐに即いて書かなければならないような気持でいましたが、それが今では、例えば菊でも梅でも去年写生して置いたものを季節を外れて――菊なら菊、梅なら梅に即かないでも書ける、即かないでも書いて見たい心持になっています。以前には、空想では書けなかった。自分の眼で見たものを其の時に書かなければ、書けなかったのですが、それが近頃では「間伸び」がしたとでも申しましょうか、空想でも書けるようになっています。狭い所から広い所へ出たような感じです。
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