2018年2月22日木曜日

横浜美術館「石内都展」と山口百恵2


坂道も、草原も、ドブ板横丁も、米軍に入りこまれたことによって仕方なく変らざるを得なかったあの街の、独特の雰囲気が、その写真の中では、陰となって表わされていた。哀しかった。恐怖さえ抱いた。
同じ街が見る側の意識ひとつでこんなにも違う。私の知っている横須賀は、これほどまでにすさまじくはなかった。
今にも血を吐き出しそうな写真にむかって私は呟いた。
この街のこんな表情を知らずに育ってこられたことに、わずかな安心感を抱いていた。

 何という写真集なんだ。僕の山口百恵をこんなにも哀しませるなんて。血を吐きそうになる恐怖のどん底に陥れるなんて。たとえこれを書いたのが残間里江子だとしても……。言うまでもなく僕は、『絶唱、横須賀ストーリー』を見てみたいとも、その写真家の名前を聞きたいとも、それが男なのか女なのかを知りたいとも思いませんでした。

0 件のコメント:

コメントを投稿

東京美術『日本視覚文化用語辞典』2

 本邦初の辞典がここに誕生したんです。しかも日本語のあとに、すぐれた英訳がついているから便利です。便利なだけじゃ~ありません。日本語と英語における視覚文化へのアプローチが意外に異なっていることが浮彫りになり、おのずとわが国視覚文化の特質といった問題へ導かれることになります。この質...