2017年11月3日金曜日

サントリー美術館「狩野元信」12


そもそも北斎辰政なる字号は、妙見菩薩に対する信仰から選ばれたものであった。妙見菩薩は、北極星または北斗星を神仏に見立てた菩薩である。北極星・北斗星は北天の星辰[ほし]であるから、また北辰とも呼ばれる。したがって妙顕菩薩は北辰菩薩ともいわれる。これらの「北」や「辰」を字号に取り入れたわけだが、「北斎」は「北辰斎」「北斗斎」を略したものとも伝えられる。

北斎は本所柳島の妙見祠を篤く信仰していたらしいのだが、この妙見菩薩はとくに日蓮宗で崇拝される菩薩なのである。富士山は日蓮宗において、きわめて重要な山岳であったから、北斎の「富嶽三十六景」や『富嶽百景』を日蓮宗と関係づけて考えたい誘惑にも駆られるのだ。この問題については、かつて拙著『北斎と葛飾派』(日本の美術367)で指摘したことがある。

このようにみてくると、日蓮宗を抜きにして近世絵画を語ることはまったく不可能だということになる。それでは、文字曼荼羅や題目本尊に最高の価値を置いていた日蓮、そのイコノクラスムともいうべき思想を受け継いで、彫像や画像に抑制的であった日蓮宗を信仰していた彼らなのに、一体全体なぜなんだという疑問がわいてくる。

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