その後も漆工芸は、日本美術において常に馥郁とした香りを放ち続けていた。玉虫厨子から近世の漆絵や柴田是真の作品へと姿を変える絵画的遺品や、正倉院御物にみる平文や末金鏤から驚異的な技術展開をみせた蒔絵、乾漆技法が隆盛を極めた天平仏から何人かの現代作家に受け継がれる乾漆彫刻、あるいは中尊寺金色堂とその伝統を引く建築装飾が、そのきわめて豊かな歴史を物語っている。そして漆工芸の原点ともいうべき無文漆器から幕末明治の民衆的工芸、いわゆる民芸へと広がる大河のごとき流れがあった。根来塗はこの流れに棹差すもっとも重要な一ジャンルにほかならない。
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サントリー美術館「NEGORO」6
しかしながら、根来塗の実態はきわめて曖昧模糊としている。そもそも「根来塗」自体が、近代に入ってできた言葉のようだが、そのもとになったのは、寛永十五年(一六三八)に刊行された俳書『毛吹草』に初めて出る「根来椀 折敷」だとされている。それは往時根来寺が盛んであった時、そこで作られ...
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