ザヘラ・モハッラミプール『<東洋>の変貌 近代日本の美術史像とペルシア』
コシマキにあるとおり、「近代日本において歴史像が刷新されるなかで、『東洋』は拡大・変容していった」ことを論証した「挑戦作」です。イランに生まれて日本へ留学し、10年ほどで東京大学から博士号を取得したモハッラミプールさんの才能と努力を心からたたえたいと思います。個人的見解を抑えて、客観的記述に専念した研究態度にも感を深くします。構造主義的研究のみごとな成果です。
僕は『國華』でもエジプト美術を扱うべきだと主張してきましたが、本書の中核的研究対象である伊東忠太も、「東洋」にエジプトを含めていた事実を知って快哉を叫びたいような気持ちになりました。一方、僕が信じているギリシアもしくはヘレニズム文明東漸説は、一つの解釈であり言説に過ぎないことを思い知らされました。
40年前、名古屋から逗子に引っ越したとき、とてもよく働いてくれた運送会社の男性は異国の人でした。「どこのお国?」と訊くと、「ペルシアです」とこたえてくれたので、いまも強く印象に残っています。本書によると、もともとこの国の名称は、自国語ではイラン、外国語ではペルシアでしたが、1935年イランに統一されたそうです。しかしこの男性は、あえて「ペルシア」を使ったのでしょう。日本では正倉院と結びつくペルシアの方が、ウケもいいにちがいありません。
なお、本書が鹿島美術財団出版助成を受けて出されたことも、ぜひ書いておきたいと思います。
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