2023年11月14日火曜日

サンリツ服部美術館「琳派」7

この西本願寺は、あくまで能の中心的寺院としての西本願寺であった。そうだとすれば、夢の夢で富士山を見たというのも看過できないところで、あるいは、脇能物の「富士山」あたりが光琳の深層心理に作用した可能性も考えられてよいであろう。

初めに名を挙げた小林太市郎氏は、すでにこの作品と能のイメージとの呼応を読み取っていた。氏は「その富士はいかにも怪しげな、すべて夢の形象のもつ妖奇さにみちて、いまにも蝦蟇となって飛びつきそうな、または畏まって光琳を東へ迎え入れるような姿を示している」と述べて、幽艶な夢の世界に演者・観者を引き入れて、この世のほかの恍惚たる至楽のなかにその心霊をとろかす能と、夢で見た世界を描いた本図との共通する美意識を指摘しているのである。

 

1 件のコメント:

  1. 「ワキ」と「シテ」と異界を旅するお能の世界観を光琳が実際体験したかは別として、自らの作品を能の要素をふんだんに取り込みながらスターリーに仕立てたのはSF且つファンタジー。もしかしたら本当にパラレルワールドを旅していたのかもしれませんね。館長のお話は本当に興味深いです。

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