2021年2月11日木曜日

小川敦生『美術の経済』10

言うまでもありませんが、自己満足や自己陶酔を揶揄したりあざ笑ったりしようとするのではありません。人間の歴史と文化と芸術は、すべからく自己満足や自己陶酔によって形成されてきたといっても、過言じゃ~ないと思います。これを経済学的にみても、すばらしい行為ではないでしょうか。どこかに貯めこまれていた87億円が、「落書き」と引きかえに世の中に放出され、人々を潤すのです。一種のトリクルダウンかもしれません。

「金は天下の回り物」とは、こういうことをいうのでしょう。同じことが、ニコラス・ブレトンという人の『諺横断』には、「金持ちの慢心が、貧乏人の富をつくる」とあるそうですが、「無題」を落札したのは金持ちの慢心ではなく、自己陶酔に浸るため――ありていにいえば自己満足を得るためだったというのが私見なのですが……。


0 件のコメント:

コメントを投稿

鎌倉国宝館「扇影衣香」9

  先日、 鏑木清方記念美術館の「あの人に会える! 清方の代表作<築地明石町>三部作」展で井手誠之輔 さん にお会いしたことをアップしました。その井手さんが、この「扇影衣香」展カタログに、「総論 絵から見た鎌倉の美術と東アジア世界――人と仏――」という巻頭論文を寄稿しています。 ...