2019年12月31日火曜日

栃木県立美術館「菊川京三の仕事」6




ご存知のとおり、ライオンは反響効果がきわめてよく設計されていて、人の話など聞こえないことが少なくない。とくに菊川さんの話し声は、凛とした響きに満ちていたが、ご老人のゆえか小声に近い。僕らは耳をそばだてるようにして、菊川さんの話を聞いたものだった。

忘れられないのは、戦前のライオンの話だった。 そのころの女給さんは着物を着ていたので、襟元にチップの五十銭硬貨を入れてあげると、急にサービスがよくなったという。菊川さんが手を伸ばして、かわいい女給さんの襟元にチップを入れる姿を想像すると、何となくおかしかった。今でもライオンの前を通るたびに、菊川さんのことを懐かしく思い出す。

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