2019年10月12日土曜日

東京ステーションギャラリー「岸田劉生展」11


画面右側を占める九段坂の構図は、これを反転させれば「切通しの写生」と瓜二つとなる。近世初期風俗画を含めて、浮世絵に強い興味をもっていた劉生が、インパクトに富む「くだんうしがふち」の構図から影響を受けた可能性は、充分に考えられてよい。あるいは写実に傾いていた劉生が、洋風画ともいうべき「くだんうしがふち」に心を動かされた可能性も。

もちろん、劉生がこれを直接参考にしたなどと断言することは憚られる。しかし、かつて見た北斎版画が、胸底にほんのわずか沈殿していて、まったく無意識のうちにそれがよみがえってくるといった記憶の回路まで、否定することはできないであろう。もしそうだとすれば、ここには無意識の継承があり、それが新しい創造を生んだのだといってもよい。それはジクムント・フロイトがいうスーパーエゴのようなもので、これまた実証不能なのだが、このような見方も現代の我々が美術を楽しむ途の一つである。

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