2018年8月8日水曜日

大原美術館美術講座9


D田中日佐夫『日本の戦争画 その系譜と特質』(ぺりかん社 1985

こういう作品群を生んだのは、たしかに時代相の反映であったと思う。しかし、私はそれでも、合戦に明け暮れた時代としては戦争画が少ないように思うのである。たとえば、あの自己顕示欲に満ちた織田信長や豊臣秀吉が、自分の居城を、自分がいままで戦い抜いてきた合戦のさまを描いた絵や、重要な会談の場面を描いた絵(もちろん私の脳裏にはベラスケスの「ブレダの開城」などがあるのだが)でもっと飾ってもよかったのではないかと思うのである。ところが安土城天主閣などにはそのような絵は一枚も描かれていなかったようである。どうも不思議に思えてしかたがない。このへんにわが国特有の、現実の儀礼や現実の戦争を描くことを拒否していた古代人から流れていたであろう心情の存在を、いまだに強く感じるのである。

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