先に李賀の名を挙げましたが、いかにも李賀らしい「秦王飲酒」を、天上で美女に囲まれ酒宴を張っている天羽さんを想像しつつ、最後に僕の戯訳で捧げることにしましょう。天羽さんが親しかった荒井健さんの『中国詩人選集』によると、秦王が誰を指すかについては諸説あるものの、特定の人物に当てはめて考える必要はないそうですから……。
秦の帝王 虎に騎[の]り 「宇宙の果てまで漫遊せん!!」
空に輝き光る剣 ただひたすらに碧い天
女神の義和が御者となり 太陽 鞭打ちゃ玻璃[はり]の音
吹っ飛ぶ前世の劫火の灰 太平の日々とこしえに
龍頭樽から酒を酌み バッカスの星招き寄せ
ゴールド飾った琵琶弾けば ベンベンベベン夜[よ]を破る
激しく雨降る洞庭湖 その音あたかも笙のよう
激しく雨降る洞庭湖 その音あたかも笙のよう
ぐでぐでに酔い怒鳴りつけ 月をも逆に巡らせる
銀色の雲 連なって 瑶[たま]の御殿に夜も明ける
だが役人はまだ今は 宵の口だと嘘を言う
花の楼閣 凰[おおとり]に 似る美女の声なまめいて
人魚が織った薄絹の 模様は真紅 微香あり
黄娥という侍女 千鳥足 舞いつつ勧める長寿の盃
仙人燭樹のローソクは 軽やかに煙[けむ]あげている
青琴とう侍女 微醺帯び 清らな涙 明眸に……
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