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2017年8月9日水曜日

静嘉堂文庫美術館「私の好きな茶道具ベスト10」12<光琳 硯箱>


⑤尾形光琳「住之江蒔絵硯箱」は光琳蒔絵の傑作として、古くから有名な作品でした。1976年、僕が集英社版「日本美術絵画全集」の『尾形光琳』を担当することになったとき、ぜひ載せたいと思って静嘉堂文庫にお願いしましたが、のちにそこの仕事をすることになろうとは、夢にも思いませんでした。

そこの仕事といっても、その頃まだ静嘉堂文庫美術館は存在せず、静嘉堂文庫の美術館として開館したのは、静嘉堂文庫創立100周年にあたる1992年のことでした。

これと同じような本阿弥光悦の硯箱があって、光琳はそれを写したことを、箱書きとしてみずから告白しています。『古今和歌集』に採られる藤原敏行の「住之江の岸による波よるさへや夢の通い路人目よくらむ」を造型化した作品ですが、「岸」と「波」は文字を省いて、図柄に肩代わりさせたところがミソです。敏行の一首は、掛詞や縁語が複雑にからみあう、古今和歌の代表歌だといってもよいでしょう。したがって現代語に翻訳すると、すごく長くなっちゃうんです。

住之江の岸に寄る波――その「寄る」と同じ発音の「夜」に見る夢が通ってくる路――それはまた夢が波のように伝わってくる路でもあるのですが、その路においてさえ、恋しいキミは人目を避けているみたいですね。だからボクは、夜、夢にさえキミを見ることがまったく叶わないんです。ましてや、昼間見ることができないことは、改めて言うまでもありません。

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