僕は応挙写生図巻のなかにある兎の写生をあげて、応挙が写生をもとにこの作品を仕上げたこと、ここにも写生主義者応挙の制作態度がよく看取できることを指摘しました。しかしそれだけではなく、ここには文化的な観念あるいは伝統的視覚も働いていたことを加筆したのです。
つまり兎といえばお月さんですが、背景をよく見ると月光を暗示させるキラキラとした雲母が刷かれているのです。また兎は木賊で歯を磨くという言い伝えも、応挙が知っていたことは明らかでしょう。それだけではありません。謡曲の「木賊」には、シテ(老翁)の「木賊刈る、園原山の木の間より、磨かれ出づる、秋の夜の月夜をもいざや刈ろうよ」という章句があるんです。つまり木賊も月と結びつきやすい植物だったのです。木賊と月は縁語関係に結ばれているといってもよいでしょう。

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