2021年3月17日水曜日

まちの記憶・蒲田8

 

 それは単なるお前の趣味だろうと突っ込まれるなら、ご登場いただくのはもちろん式亭三馬である。滑稽本の傑作『浮世風呂』には、銭湯の素晴らしい点が五つ挙げられている。垢を落として疲れを癒すのは仁、譲り合って桶を使うのは義、入る時や帰る時に挨拶をするのは礼、糠洗い粉や軽石・ヘチマを使うのは智、お互いに背中を流しあうのは信であるという。

礼や信はほとんど廃れてしまったが、脇の人に石鹸やお湯がなるべく飛びはねないように気をつける義は生きている。もっとも、現代人にとってはその気兼ねが煩わしいということになるのだろうが、それを補って余りある爽快感――仁がある。

0 件のコメント:

コメントを投稿

サントリー美術館「絵金」14

  どうしてレッシングがこういう結論に達したかというと、彼が文学と絵画をはっきりと分け、文学は時間を表現する芸術であり、絵画は空間を表現する芸術である――あるいはそうであるべきだと考えていたからでした。それを端的に表明した有名な一節が、『ラオコオン』に見いだされます。   あ...