2020年6月3日水曜日

石守謙「物の移動と山水画」(『國華』)10



実にすばらしく、またうらやましいエピソードではありませんか。蕪村はこのことを知らなかったかもしれませんが、このような中国文人の人間的交流にあこがれ、画家にして詩人であった唐寅を理想としたのではないでしょうか。いうまでもなく、蕪村は画家にして俳人でした。
もっとも、沈周も画家にして詩人であったのですが、生活を奇矯にすることはなかったといわれる沈周より、「江南第一風流才子」と自称して自由に生きた唐寅に、蕪村はより一層強い魅力を覚えたのでしょう。
吉川先生によると、唐寅の奔放不羈は兄弟子の祝允明があきれるほどでした。道で見かけた美人のあとをつけ、大きな質屋の小間使いと知ると、身分をかくして番頭に住み込み、思いをかなえたという話が、小説『今古奇観』[きんこきかん]に見えるそうです。「全然の虚構ではないであろう」と吉川先生はおっしゃっていますが、芸妓・小糸と老いらくの恋に落ちた蕪村も、きっとこの話を知っていたことでしょう。

0 件のコメント:

コメントを投稿

東京都美術館「田中一村展」7

  農家の師走の仕込み酒 濁っていたって構やせぬ 客へのご馳走 鶏 とり や豚 豊年ゆえか山盛りだ 川は入り組み山高く 行き止まりかと思ったら 芽吹く柳と桃の花 こんな処にまた一村 笛や太鼓が響き来る もうすぐ春の祭りらしい みんなの着物は質素だが 古きゆかし...