2020年5月27日水曜日

石守謙「物の移動と山水画」(『國華』)3



摺扇と摺扇画は中国で発明されたのではなく、その東に位置する高麗と日本から1011世紀には既に伝わっていたものである。摺扇の伝来と使用において、中国・日本・朝鮮半島の三つの地域は早くから、一つの互いに繋がりあう全体をなしていた。このことは後世で摺扇が「東アジア」文化の表象となる基礎を育てたといえる。……しかし摺扇の場合はその逆の道筋を行き、中国の立場は受容者にすぎず、日本こそが摺扇の東アジア文化圏における移動の起点となったのである。そして高麗(及び後の朝鮮王朝)は、日本で生まれた摺扇が西に伝わる中継点となり、また彼等自身も摺扇を生産したのちには別の起点の一つとなった。言い換えれば、摺扇の中国での使用と後の摺扇画の流行は、基本的にこうした摺扇が東から西へ伝わった結果なのである。

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