張瑞図「松山図」(杜甫「七月一日 終明府の水楼に題す二首」の一)
重なる軒と高い棟 すでにもう秋 涼しいよ
しかも秋風吹くこの日 俺の着物もひるがえる
早くも陰山から雪が 飛んできそうな気配あり
こんな明媚な風光を 捨てて都へ行くもんか
役所じゃ必須の口中香――それなきゆえじゃーありません
絶壁行く雲 晴れたあと 錦のように美しく……
まばらな松の木 奏でてる 妙なる笛の音 川向こう
貴兄にゃ県令・王喬[おうきょう]が 履いたクツこそふさわしい!!
それがそのうち皇帝の 御用工房から届かん!!
*この作品には「絶壁過雲開錦繍 疎松隔水奏笙簧」とあるだけですが、じつは詩聖・杜甫の「七月一日 終明府の水楼に題す二首」のうちの一首なんです。下定雅弘ほか編『杜甫全詩訳注』(講談社学術文庫)によって、戯訳を試みました。杜甫の詩には難解なものが多いのですが、この七言律詩もむずかしく、いろいろな解釈があるそうです。
たとえば、前聯の「不去非無漢署香」で、僕は字面から単純に訳してみました。しかし通説では、「私がこの地を去らぬのは(この風景を捨てがたいからであって)尚書省で口に鶏舌香を含んで勤務するつもりがないからではない」と、尚書省工部員外郎に就任したがっていた杜甫の気持ちに寄り添って解釈しています。これによれば、「こんな明媚な風光を 捨てて都へ行くもんか 仁丹必須の役人に なりたい気持ちはあるけれど……」となるでしょう。
いずれにせよ、この一句だけは言葉を添えないと意味をなさないので、上記のように二行になって、ますます変な戯訳になってしまいましたが……。
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