2023年1月31日火曜日

出光美術館「江戸絵画の華」10

僕は①落款から寛政元年(17894月、応挙57歳のときの制作だとわかること、②個々のモチーフは写生から導き出された美しい典型的フォルムを誇っていること、③しかし写生と大画面構成の相克を解決しようとする、若いころの強い意思からは解き放たれていること、④したがって全体的にみると、それ以前の有機的構成から情趣的構成へバージョンアップしていること、⑤これが弟子・呉春によって創始された四条派に決定的影響を与えたことを指摘しました。

出光佐千子館長から『江戸絵画の華』カタログを送られると、先ずこの屏風の解説を読んでみました。しかし今回は、若い研究者からとくに批判もされていないようなので、ホッとしたことでした() 

 

2023年1月30日月曜日

出光美術館「江戸絵画の華」9

僕は「このような傑作が海を渡ってしまうことを、少し残念に思う気持がまったくなかったわけではないけれども、自己の美意識にのみ忠実に収集を続けるジョウ・プライス氏に末永く愛されることになったこの屏風は、ふたたび幸せな環境に戻ったというべきであろう」と書き出しています。

しかしそれがふたたび里帰りし、しかも永住の地・出光美術館に収められたわけですから、僕の少し残念に思う気持が天に通じたにちがいありません() 

 

2023年1月29日日曜日

出光美術館「江戸絵画の華」8

 

 「僕の一点」は円山応挙の「懸崖飛泉図屏風」ですね。京都の個人宅でこの屏風をはじめて見て感を深くしたのは、20001218日のことでしたが、相前後してプライス・コレクションとなりました。3年後『國華』で「プライス・コレクション特輯号」が組まれることになったとき、この傑作はぜひ僕に紹介させてほしいと、主幹の辻惟雄さんにお願いしたのでした。

いま『國華』1290号を書架から引っ張り出してきて、ながめながらこの「饒舌館長ブログ」を書いています。


2023年1月28日土曜日

出光美術館「江戸絵画の華」7


あの2011.3.11の東北大震災のあとには、東北の人々を、いや、日本人を鼓舞し元気づけるために、プライスご夫妻はあえてコレクションを貸し出し、仙台、盛岡、福島で特別展「若冲が来てくれました――プライス・コレクション 江戸絵画の美と生命――」を開催してくださいました。秋田出身にして秋田県立近代美術館のディレクターをつとめていた僕は、プライスご夫妻の心意気に感ぜずにはいられず、盛岡と福島におけるご夫妻との鼎談講演会にみずから出席させてもらったのでした。

先の在米琳派調査旅行の前にも、辻惟雄さんに紹介され東京でお会いしていますから、文字通り半世紀の間親しくさせてもらってきたわけです。改めてプライスご夫妻には感謝の辞を捧げたいと存じます!!!!!

 

2023年1月27日金曜日

出光美術館「江戸絵画の華」6

 

都国立博物館の「琳派 京を彩る」は、チョット関係していた琳派400年記念祭をことほぐ特別展でした。ゲストキューレーターをやらせてもらいましたし、ちょうど京都の美術大学につとめていたこともあって、とくに強く印象に残っているのかもしれません。

1993年秋には、プライスご夫妻が主催した国際シンポジウム「Legacy of Japanese Art Scholarship」に参加させてもらいました。ご夫妻はカリフォルニアのコロナ・デル・マールに新しく建てた、おとぎ話に出てくるような家――マッシュルーム・ハウスにお住まいでしたが、別棟のスタディルームにおける贅沢な鑑賞体験を忘れることができません。それから谷一尚さんと一緒に泊めていただいた研究宿舎と、ご夫妻の心づくしを思い浮かべつつ、今この饒舌館長ブログを書いているところです。

2023年1月26日木曜日

出光美術館「江戸絵画の華」5

フランク・ロイド・ライトの親友にして弟子であった建築家にブルース・ゴフがいます。その設計になるオクラホマ州バートレスヴィルの旧プライス邸・心遠館にお邪魔し、コレクションを拝見させてもらったのは昭和50年初夏――それがまず思い出されます。山根有三先生をリーダーとする在米琳派調査旅行でした。今年は昭和98年ですから()48年前のことになります。

 このときの愉快な思い出は、『芸術新潮』200510月号の「光琳の七不思議」という特集に、「ニューヨークで光琳を」と題して書いたことがあります。その10年後、2015年京都国立博物館で開かれた特別展「琳派 京を彩る」のカタログにも、「琳派私的旅行」と銘打ってもう一度書いたような気がします。 

2023年1月25日水曜日

出光美術館「江戸絵画の華」4

 

来る130日(月)朝日ホールで辻惟雄+出光佐千子+3Kによる「江戸絵画の華」座談会が開催されます。しかしもう満席のようです。これだけの豪華メンバーですから当然かもしれません――饒舌館長はともかくとして()

その代わりというのも変ですが、静岡県富士山世界遺産センター主催・世界遺産富士山登録10周年記念特別企画「富士山 芸術の源泉」が東京美術倶楽部で開催されます。24日(土)午後1時から講演会が開かれ、饒舌館長は3時から「江戸絵画史の富士山図 饒舌館長ベスト10」と題して講演、いや、口演をやることになっています。こちらの方はまだ余裕がありますので、ふるってご参加ください!! もちろん無料です()


2023年1月24日火曜日

出光美術館「江戸絵画の華」3

「鳥獣花木図屏風」のモザイクのひと桝ごとに撮影した一枚をパソコンの画面で見せては、「どの部分かわかる?」と試験するジョーさんの前で、私たち学生は必死に目を凝らして屏風に見入ったひとときを思い出します。ジョーさんのお話を聞きながら、障子越しの光のもとで、朝夕で作品の見え方が変わる様子を体験したのも、この作品が最初でした。

 出光佐千子さんと同じように、饒舌館長にとってもプライスご夫妻との思い出は尽きることがありません。

 

2023年1月23日月曜日

出光美術館「江戸絵画の華」2

この度、プライスご夫妻のコレクション約190件が出光美術館に入ることになりました。ロサンゼルスのカウンティー美術館にはご夫妻のコレクションを展示・保管する日本館があり、日本美術の魅力を積極的に発信なさってこられましたが、出光美術館が継承することになったのは、これとは別に、ご夫妻がご自宅で大切にされてきた絵画コレクションのほとんどの部分となります。

私自身が初めて、ガラスケースに入らない状態での本来の姿の屏風の名品と接することができたのが、大学院生時代に、河合正朝先生や小林忠先生に連れて行っていただいた米国調査旅行でのプライス邸心遠館での伊藤若冲筆「鳥獣花木図屏風」でした。私にとって日本美術研究の「いろは」を教えてくれたコレクションと、日本で、しかも出光美術館の展覧会で再会することになろうとは夢のようです。

 

2023年1月22日日曜日

出光美術館「江戸絵画の華」1

出光美術館「江戸絵画の華」<326日まで>

 待ちに待ったお披露目展「江戸絵画の華」が出光美術館で始まりました。第1部「若冲と江戸絵画」<17日~212日>と第2部「京都画壇と江戸琳派」<221日~326日>に分かれています。エツコ&ジョウ・プライスご夫妻が情熱を傾けて蒐集した江戸絵画から85点が厳選され、見るものの眼を楽しませ、心を沸き立たせてくれます。

伊藤若冲の「鳥獣花木図屏風」が表紙を飾る素晴らしいカタログの巻頭には、館長の出光佐千子さんが「幸福を感じる絵画――プライス・コレクションの魅力」と題して体験的エッセーを寄せています。書き出しの一部を紹介することにしましょう。

2023年1月21日土曜日

和漢朗詠集・酒16

 

大中臣能宣おおなかとみのよしのぶ

をみ(小忌)にあたりて侍りける人のもとにまかりてはべりけるに、女さかつきにひかげをいれていだし侍りければ

 有明のこゝちこそすれ酒盃さかつきにひかげもそひていでぬと思へば

*ある神事に奉仕する人のもとへ出かけると、お付きの女性が盃に日陰蔓ひかげのかずらを浮かべたお酒を出してくれたので、まるで月がありながら夜が明けてくる有明けのような心地がしました――といったところでしょうか。つまり能宣が訪ねたのは、月夜だったのでしょう。日陰蔓は羊歯しだの一種で、もともと神事に際し、物忌みのしるしとして冠の笄こうがいに飾ったそうです。もちろんこれは音を通じ合わせたものであって、漢字でかけば「日陰蔓」に対して、「日影も添いて……」となるでしょう。この女性がこれをお酒に浮かべて出してくれたのも、物忌みという隠喩であって、単に見た目をよくしようとしたわけではなく、ましてやお酒を美味しくしようとしたわけじゃ~ないようです()


2023年1月20日金曜日

和漢朗詠集・酒15

 

慶滋保胤よししげのやすたね「酔って水に落ちる花を看る」

(酒飲みながら酔いながら 水に散ってく花見れば)

 王勣郷おうせききょうの霞のよう 波のまにまに消えていき

 嵆康山けいこうさんの雪のよう 水に浮かんで流れ去る

*王勣・嵆康はともに酒仙詩人ですから、これは酔郷(酔っ払い天国)や酔郷にある山をいったものでしょう。


2023年1月19日木曜日

和漢朗詠集・酒14

橘相公「酔郷に入る」

 先ず阮籍げんせきに酔郷へ 道案内を頼んだら

 どんな様子か劉伶りゅうれいに 訊いてみたいと思います

後中書王「酔郷に入る」

 酔人天国 酔郷は 建徳国の隣にて 歩いて行くには及びません

 無何有むかうに接する国境くにざかい 越えればすべて忘れちゃう そこが酔郷 酔っちゃえば

 

2023年1月18日水曜日

和漢朗詠集・酒13

 

大江匡衡おおえのまさひら「煖寒飲酒に従う」

 酔郷氏の国 寒暑なく 温和な気候だ一年中

 酒泉の民は百畝さえ 寒さで凍る場所 知らず

(すべてお酒の賜物だ みんなお酒のお陰です)

藤原明衡ふじわらのあきひら『本朝文粋ほんちょうもんずい』内宴「晴るれば草樹の光を添ふ」

 上林園から来た果実 含めばとろける美味しさで

 酒は天下の「下若村かじゃくそん」 杯はい傾けりゃ絶美なり

2023年1月17日火曜日

和漢朗詠集・酒12

白楽天「琴酒」

 琴 伸びやかに演奏が 始まりゃ耳に心地よく

 酒 ただ半ば酔うだけで 小賢こざかしさなどどこへやら……

 栄啓期えいけいきをして酔っ払う 楽しさ理解させてたら

 「酒 楽しみの四」と挙げ 三つで終るはずがない!!

*孔子時代の栄啓期という人が「万物の中で人と生まれた、楽しみの一、男女の中で男に生まれた、楽しみの二、90まで長生きした、楽しみの三」といったという『列子』に出る故事をふまえるそうです。

 

2023年1月16日月曜日

和漢朗詠集・酒11

 

白楽天「鏡を杯に換える」

 珠たまで飾った鏡箱の 青銅鏡を取り出して

 白玉杯と酒樽に 交換しようと思います

 鏡に写る老醜を 避けることなどできないが

樽酒 一杯やるだけで 愁いの消える時もある

 お茶は心の煩悶はんもんを 消すけど効果は高が知れ

 萱草かんぞう憂いを忘れさす――しかし効くのが遅いのだ

 酒の不思議な神速しんそくに それらはとても敵かなわない

 わずか一杯それだけで 愁眉を開くお酒には……


2023年1月15日日曜日

サントリー美術館「京都・智積院の名宝」5

ところがその後河合正朝さんと飲んでいて、たまたま桃山美術の話題になりました。すると河合さんが、守屋謙二先生はつねづね桃山美術こそバロックだとおっしゃっていたと言うじゃ~ありませんか。

小躍りしたいほどうれしかった!! だって守屋先生は、ハインリヒ・ヴェルフリンの『美術史の基礎概念』を翻訳されたように、ヨーロッパ美術、バロック美術の権威ですよ!! その先生が桃山美術=バロックとおっしゃっていたんです!! これ以上確かなお墨付きはこの世にないじゃ~ありませんか!! またまた僕のあやふやな直感は、疑いなき確信にバージョンアップしたのでした()

 

 

2023年1月14日土曜日

サントリー美術館「京都・智積院の名宝」4

 

桃山障屏画は一般的にいわれるルネッサンスにあらずして、バロック絵画だというのが僕の直感であり、またこの拙文の趣旨でした。もちろん長谷川等伯にも登場してもらい、その解放的(開放的)特質を指摘し、ハインリヒ・ヴェルフリンが『美術史の基礎概念』でバロックの特質としてあげる開かれた形式(非構築的)と有無通じていると書いたんです。

具体的には全体が遺らない智積院障壁画じゃ~なく、「松林図屏風」の方を使いましたが、まったく自信がありませんでしたし、仲間からの反応も皆無でした。ジェネラルブックですから仕方ありませんが()

2023年1月13日金曜日

サントリー美術館「京都・智積院の名宝」3

 

起床が5時半なんです!! その代わり、6時から「松に黄蜀葵図」を特別に拝見することが許されました。普段は宝物館の隅、巨大なウォークインクロゼットみたいなところに仕舞ってあって、展示されていない画面――山根有三先生によれば、これこそ等伯が担当した真骨頂を示す画面なんです。今回サントリー美術館でこの巨大な画面の前に立つと、昨日のことのようにそれが思い出されたのでした。当然「僕の一点」はこの「松に黄蜀葵図」になりますね。

若いころはチョット長谷川派のことを書いたこともあるのですが、その後興味はむしろ江戸絵画の方へ移っていったので、ご無沙汰のまま打ち過ぎてしまいました。ほとんど唯一の例外が、辻惟雄さんに求められて『日本美術全集15 永徳と障壁画』(講談社 1991年)に寄稿した「桃山障屏画論」です。

2023年1月12日木曜日

サントリー美術館「京都・智積院の名宝」2

はじめて僕がこのとてつもない絵画世界を目の当たりにして、深く心を動かされるとともに、こういうのを一生メシのタネにするのも悪くないじゃんと思ったのは、昭和41年初夏のことでした。今年は昭和98年ですから()もう57年前のことになります。

その後、京都国立博物館や養源院に観覧や調査で出向いたとき、時間があれば智積院に寄って、大書院の廊下に腰をおろして、あるいは宝物館でぼんやりとこれをながめることもありましたが、忘れられないのは、名古屋大学時代、学生との研修旅行で宿坊智積院会館に泊めてもらったときのことです。

 

2023年1月11日水曜日

サントリー美術館「京都・智積院の名宝」1

 

サントリー美術館「京都・智積院の名宝」<122日まで>

 長谷川等伯一門の彩管になる国宝「楓図」「桜図」などの智積院障壁画群を、はじめて寺外で同時公開する特別展です。いつも非公開である堂本印象画伯の宸殿障壁画も、六本木へやってきました。今までなかったことです。

桃山障壁画の装飾的絵画世界をリードしたのは、狩野永徳とその後継者たちでしたが、そこに長谷川等伯という天才が一人加わったことによって、いや、あとから割り込んだことによって、何と豊饒にして華麗、優美にして絢爛、爽快にして清浄なる二次元的造形が成就したことでしょうか。その象徴こそ、智積院障壁画にほかなりません。

2023年1月10日火曜日

和漢朗詠集・酒10

白楽天「蕭処士の黔南けんなんに遊ぶを送る」

 我が敬愛の蕭処士は 詩文を能くし酒好きで

 浮雲みたいに定めなく 鬢びんの白さが霜に似る 

 生業なりわいなんかはうっちゃって 詩を本業にしています

 家計なんかも忘却し お酒を故郷にしています

 旅路は長江 巴峡はきょうから 巴へびの字みたいにうねうねと……

 岸の野猿が巫山ふざんより 腸ちょう断つ声で鳴いたでしょう

 どうして険しい黔中道けんちゅうどう 旅ができよう酔ってなきゃ

 月 磨囲山まいさん上に冴えわたる 今夜はガンガン飲んでくれ!!  
 

2023年1月9日月曜日

和漢朗詠集・酒9

 

白楽天「酔中紅葉に対す」

 風に吹かれて晩秋の 木々がこずえを鳴らしてる

 その下で酒 酌んでいる 年取っちゃった俺おれ一人

 酩酊した顔マッカッカ 霜にあたった紅葉もみじのよう

 紅顔だけれど青春の 美少年とは似て非なり


2023年1月8日日曜日

和漢朗詠集・酒8

 

それでは『和漢朗詠集』酒部漢詩の戯訳を始めますが、なかには『和漢朗詠集』の引用句だけじゃ~なく、全部を訳した詩もあります。

公乗億「友の大梁に帰るを送る賦」

 新豊県の酒の色 ひんやり鸚鵡盃おうむはいのなか

 長楽宮の歌声は 笙しょうとハモッてむせんでる

白楽天「酒功賛并びに序」

 建威将軍 晋代の 劉伯倫りゅうはくりんは酒好きで

 酒をたたえる酒徳頌しゅとくしょう かつて作って伝えたり

 唐の太子の賓客の 白楽天も酒好きで

 酒の効果を称誉する 酒功讃しゅこうさん詠み劉を継ぐ

2023年1月7日土曜日

和漢朗詠集・酒7

 

お屠蘇といえば、江戸川柳に傑作があります。「飲み逃げをして薬種くすりやで屠蘇を買かい」という一句です。江戸時代、屠蘇散は年末に医者からもらうのが通例だったそうですが、前に病気を診てもらったとき薬代を払わなかったため、結局年の瀬に屠蘇散を薬屋でみずから買う羽目になったというのがオチです。飲み逃げといえば酒と相場が決まっていますが、薬というのも笑わせてくれます。

いま僕は『季刊 音楽鑑賞教育』という雑誌に「美術の楽しみ」と題する連載エッセーを書いています。この11日号には土佐光吉筆「月次風俗画帖」(山口逢春記念館蔵)から一月の正月風景を紹介しました。イントロには正月にちなむ詩歌を引用したのですが、真面目な漢詩や和歌ばかりじゃ~おもしろくないので、この江戸川柳で盛り上げることにしたんです() 

2023年1月6日金曜日

和漢朗詠集・酒6

 

静嘉堂本『倭漢朗詠抄』をみると、中国からもたらされた唐紙に、日本の絵師が金銀泥で花鳥を描き加えています。基底をなすマテリアルの料紙自体が、日中のコラボレーションになっているじゃ~ありませんか!! 

令和5年癸みずのと卯のお正月は、『和漢朗詠集』から気に入った詩歌を選び、川口久雄先生の現代語訳にしたがって戯訳をほどこしつつ過ごしましたが、巻下の「酒」部に挙げられる漢詩11首はとくに推敲を重ねました。何しろお屠蘇に始まり日本酒、ウィスキー、焼酎、シャンパン、ビールと、いろんな酒を味わいながらやったので、どうしても「酒」部に力が入っちゃったんです()

2023年1月5日木曜日

和漢朗詠集・酒5

 

 『和漢朗詠集』は日本文化の象徴であるというが独断と偏見です。日本文化は和と漢という二つの要素によって作られているわけですが、和歌と漢詩文が並列している『和漢朗詠集』はそれを視覚的に直感させてくれるからです。こんな文学作品はほかにありません。

それだけではありません。日本文化は中国文化の影響を受けながらも、その模倣に陥らず、独自の文化を創造しましたが、この意味でも『和漢朗詠集』はもっとも重要な日本文学です。なぜならこのような詞華集は中国に見つけることができず、我らが日本にしか存在しないからです。何故なのか? それは中国に平仮名がなく、作ろうとしても作れなかったからです() 

2023年1月4日水曜日

和漢朗詠集・酒4

 

もとは一巻の巻子装と考えられ、静嘉堂本以外にも18件が確認されているが、いずれも『和漢朗詠集』下巻の断簡であり、上軸と下軸の間に該当する。

本作の「太田切」という通称は、上軸巻末の跋文から、京都所司代をつとめた掛川藩主・太田資愛すけよし17391805)が旧蔵したと考えられることに由来する。明治時代になり、上軸は田中光顕(18431939)、下軸は図案家・岸光景(18401922)が所蔵していたが、彌之助が入手したと考えられている。


2023年1月3日火曜日

和漢朗詠集・酒3

 

藤原公任(9661041)の撰による588首の漢詩句と216首の和歌からなる『和漢朗詠集』を、当時、大陸から舶載された華麗な唐紙に、金銀泥による大和絵風の下絵を加え、漢詩と和歌を対照的な書風で書写した巻子の一部。仮名の大胆かつ軽快な書風や漢字の穏和な行書体、唐紙の装飾が見所である。

「太田切」2巻のうち、上軸は『和漢朗詠集』下巻の冒頭「風 雲 晴……」に始まり「酒」までを収録、下軸も同じく下巻の「交友」から巻末の「……恋 無常 白」までを収める。

2023年1月2日月曜日

和漢朗詠集・酒2

 

これらの事実を考えると、静嘉堂の『倭漢朗詠抄』というのも『倭漢朗詠集』の意味だということになるでしょう。和漢詩歌のなかからすぐれた佳句を抄録したものというような意味なのでしょうか。そうだとすれば、いよいよもって詞華集アンソロジーと呼ぶにふさわしいということになります。『諸橋大漢和辞典』を引くと、「抄」には「うつし」の意味がありますから、あるいはこれかもしれません。

先日、静嘉堂@丸の内オープン記念展「響きあう名宝――曜変・琳派のかがやき――」が終りましたが、この記念展にこれが出陳されないはずはありません。そのカタログ解説を引用しておきましょう。


2023年1月1日日曜日

和漢朗詠集・酒1


明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。今年のマイ版画年賀状は、棟方志功生誕120年を祝して、棟方美人をパクることにしました()

 静嘉堂文庫美術館には国宝『倭漢朗詠抄 太田切おおたぎれ2巻が収蔵されています。一般にいうところの『和漢朗詠集』で、倭=和であることは言うまでもありません。「朗詠抄」というのは、『和漢朗詠集』の抄本という意味ではなく、『和漢朗詠集』と同じ意味だと思います。

『和漢朗詠集』といえば、もっぱら川口久雄先生の『和漢朗詠集 全訳注』(講談社学術文庫)のお世話になってきました。この底本となった御物本『和漢朗詠集』の巻尾には「倭漢抄」という内題があるそうです。また川口先生の感動的な解説を読むと、『古今著聞集』に「和漢抄屏風」二百帖というものが出てくるそうです。

 

追悼 高階秀爾先生16

   総合司会の大高保二郎さんがみごとに〆れば、 2024 鹿島美術財団東京美術講演会もほぼ定刻に終了、会場を地下ホールに移して、コロナ明け初のレセプションとは相なりました。僕たちは高階秀爾先生の一日も早き快復を祈念しつつ歓談、杯を重ねましたが、 9 日後に幽明界を異にされるとは...