2023年8月31日木曜日

トークショー「都市と美術館」1

 

トークショー「都市と美術館 『静嘉堂文庫美術館×三菱一号館美術館』丸の内での活動、街に愛される美術館とは」(明治安田ホール丸の内)

昨日は饒舌館長と美術萬屋が登壇するトークショー「都市と美術館」に多数ご参加いただきありがとうございました。木戸銭分たのしめてもらえましたでしょうか? もっとも「木戸銭返せ‼」といわれても……。

静嘉堂文庫美術館については、すべてモデレーターの野口玲一さんにお任せすることにしました。とくにジョサイア・コンドルのペンになる「丸の内ギャラリー」平面図に関する野口さんの読みを、とても興味深く拝聴しました。僕は「都市と美術館」という大きな問題について、いつもの独断と偏見を開陳いたしました。時間が押していたので、カットした一点だけをここにアップしておきたいと思います。

竹浪遠『松竹梅の美術史』6


   神様みたいな筆遣い よく梅花には見るけれど

 なぜ気づかない? 松と竹 いっそう真に迫ること

 百花繚乱 咲く花は 表面だけの友だちだ

 三人だけが厳冬も 友情 枯らさぬ真の友

2023年8月30日水曜日

竹浪遠『松竹梅の美術史』5

 

ある県の長官である徐聖可が持っていたこの揚補之双幅に、士大夫の楼鑰ろうやくが七言絶句を2首、賛として書き加えたそうです。マイ戯訳で紹介することにしましょう。

 誰が植えたか枝まばら 古雅なる岸辺に梅の木を

 苫とまを押しやり眺めれば 俗を離れた清らかさ

 竹薮から出た梅一枝いっし――その素晴らしさ見てごらん

 きっと心に江南の 春の愁いが満ちるだろう


2023年8月29日火曜日

竹浪遠『松竹梅の美術史』4

 

日本の江戸と中国の元という時空を超え、「草花蒔絵四方盆よほうぼん」と「青花松竹梅図香炉」においては吉祥性が美しい共鳴を起こしている――これが饒舌館長の見立てですね。そこに生活美術である工芸の本質を、感じ取ることができるのではないでしょうか。

北宋から南宋にかけて活躍した、墨梅で有名な画家・揚補之ようほしには、松竹梅の三つを描いた双幅があったそうです。中国ではこれを「歳寒三友」と呼びましたが、我が国の文人たちにも愛されるイメージとなりました。厳しい冬のような苦難にあっても、決して失われることのない男の友情――それが歳寒三友です。


2023年8月28日月曜日

竹浪遠『松竹梅の美術史』3


 これを通読すれば、先に「僕の一点」として選んだ酒井抱一下絵・原羊遊斎作「草花蒔絵四方盆そうかまきえよほうぼん」(出光美術館蔵)の美術史的楽しみはさらに深まるでしょう。手に取ったらまず読んで欲しいのは、最後にある竹浪遠さんの「歳寒三友図の成立をめぐって」ですね。
 松竹梅は初め君子や友情の象徴だったけれども、徐々に吉祥性が加わっていったという、大変興味深い指摘があるからです。「草花蒔絵四方盆」から感じられるのは、まさに吉祥性の方でしょう。
 竹浪さんは元代の工芸を取り上げて、存分に発揮された吉祥性をそこに見出しています。例として「青花松竹梅図香炉」(北京・故宮博物院蔵)の写真が掲げられています。

2023年8月27日日曜日

竹浪遠『松竹梅の美術史』2

 

 この特別展を発展させて編集刊行された本書は、「鑑賞編」と「論考編」からなっています。前者は松竹梅をライトモチーフにした絵画工芸作品をカラー図版で紹介し、それぞれに解説を添えています。解説は簡にして要を得ており、しかも研究の成果がよく反映されていて、饒舌館長の独断と偏見とはわけが違います() 

後者は8人の研究者が松竹梅にまつわるテーマを設けて、それぞれ専門的な立場から論述を進めています。これまたすべて研究の成果ですが、脚注のついた論文と、もう少しやさしく書かれたコラムとに分かれています。



2023年8月26日土曜日

竹浪遠『松竹梅の美術史』1

 

竹浪遠編『松竹梅の美術史』(中央公論美術出版 2023年)

 昨日の記事で、この本のことを紹介させてもらいました。チョット失礼な言辞を弄してしまいましたが、竹浪さん、お許しください。コシマキには次のように書かれています。

高潔と吉祥の表現史 東洋日本美術における「松」「竹」「梅」のモチーフには、どのような意味が込められ、どう表現されてきたのか。多彩なイメージの来歴を知るための、鑑賞にも役立つ美術ガイド。

 本書の起点になったのは、2014年春、黒川古文化研究所・泉屋博古館・大和文華館の三者が共同で企画開催した「松・竹・梅」特別展だそうです。


2023年8月25日金曜日

出光美術館「しりとり日本美術」5

文字通り漆黒の漆に、金蒔絵で松竹梅を表わした3枚組みの印象的な作品です。梅はいわゆる「光琳梅」ですが、松も竹も光琳模様を抱一がアレンジしたものでしょう。

この松竹梅という主題については、最近とてもいい本が出ました。京都市立芸術大学の竹浪遠たけなみはるかさんが編集した『松竹梅の美術史』(中央公論美術出版 2023年)です。松竹梅が東洋の美術史上、また文化史上、非常に重要な伝統的モチーフであることを教えてくれます。

しかしそんなことを知らなくたって、この抱一デザイン・羊遊斎作のすばらしい四方盆よほうぼんに、切子の徳利と猪口をしつらえて冷酒を一杯やったら、この暑さなんかウソのようにどこかへ飛んでいってしまうことでしょう( ´艸`)

 

2023年8月24日木曜日

出光美術館「しりとり日本美術」4

 

これが契機となって企画された特別展は、空前にして絶後の原羊遊斎展だといってよいでしょう。実はこのとき僕も、「原羊遊斎と江戸文化人」という講演をやらせてもらったので、とくに忘れがたい展覧会になったのです()

 原羊遊斎は酒井抱一と無二の親友でした。郷家さんは先の「評伝 原羊遊斉」に「酒井抱一との関係」という一章をもうけ、羊遊斎が著名な蒔絵師になったのは、抱一の支援によるところであったことを指摘されています。

 今回「僕の一点」に選んだ羊遊斎の「草花蒔絵四方盆よほうぼん」も、抱一の下絵をもとにした作品です。ですから羊遊斎は、抱一が愛用した「抱一」朱文重郭方印を、朱漆でていねいに描き加えているんです。

2023年8月23日水曜日

来週8月30日(水)夕方6:30から、明治安田ホール丸の内でトークショー「都市と美術館『静嘉堂文庫美術館×三菱一号館美術館』丸の内での活動、街に愛される美術館とは」が開催されます。登壇するのは、ご存知!!饒舌館長・河野元昭、萬美術屋・安村敏信、モデレーターはこの春「芳幾・芳年」展を成功させた三菱一号館美術館の野口玲一です。

テーマが「都市と美術館」となれば、饒舌館長が黙っているはずがありません( ´艸`) 「美術館は近代都市において最後にたどりつく場所だ」と断言したフランス・ポンピドー・センターの初代館長ポントウス・フルテンの向こうを張って、いつもの妄想と暴走で突っ走る所存です(⁉)

明治安田ホール丸の内というのは、MY PLAZAホールと呼ばれていた静嘉堂@丸の内に隣接するビルのホールです。お間違えなきように❕❕❕ 最近なまえが変わったようですが、俺に無断で変えたりするな❕❕❕ チョット大枚をいただくようですが、ゼッタイ損はさせません(⁉)興味のある方、饒舌館長ファンの方、そしてヒマな方(⁉)下記のURLからお申込みのうえご来駕のほどを❕❕❕  

https://mimt-cityandmuseum02.peatix.com/

 

出光美術館「しりとり日本美術」3

 


ニュージーランドのダニーデンにオルベストン邸があり、そのコレクション「江都遊里蒔絵盃」があります。五島美術館の特別展は、郷家さんがこの蒔絵盃を発見したことに端を発するものでした。1991年、五島美術館・サントリー美術館・小樽市によるプロジェクト「在ニュージーランド日本美術調査」が行なわれました。

そのメンバーのお一人が郷家さんで、オルベストン邸でこれを一目見るなり、これは自分も知らなかった原羊遊斎のとても興味深い作品だと驚いていらっしゃる。僕もカバンモチで加えてもらっていたので、その現場に立ち会ったというわけです。僕はニュージーランドにもジャポニスムが流行っていたことを知って、深く心を動かされました。

2023年8月22日火曜日

出光美術館「しりとり日本美術」2

 

 「僕の一点」は原羊遊斎作の「草花蒔絵四方盆」ですね。羊遊斎は江戸後期を代表する蒔絵師です。斎藤月岑の『武江年表』には、文化年間の名家として羊遊斎が挙げられていますから、当時から超有名だったんです。羊遊斎の人と芸術については、親しくさせていただいた郷家忠臣さんの研究に尽されています。

1999年秋、五島美術館で「羊遊斎 江戸琳派の蒔絵師」というすばらしい特別展が開かれました。このカタログに郷家さんが寄稿した「評伝 原羊遊斉」によって、羊遊斎のすべてが分かっちゃうんです。一般的に「羊遊斎」と書きますが、郷家さんは蒔絵の落款を重視して、「羊遊斉」の方を使っています。

2023年8月21日月曜日

出光美術館「しりとり日本美術」1

 

出光美術館「日本の美・鑑賞入門 しりとり日本美術」<93日まで>

日本美術作品には、くり返されるテーマ、共通する形や、デザインがあります。この企画のタイトルに示した「しりとり」とは、言葉遊びの意味ではなく、ある作品のイメージが別の作品へと自然につながっていく様子をたとえています。

 これは出光美術館で開催されている「日本の美・鑑賞入門 しりとり日本美術」展のカタログにある「ごあいさつ」の一節です。これを分かり易く展示して、夏休みに親子で「気軽に親しんで」もらおうとする企画です。

 しりとりは言葉の遊びですが、しりとりのように伝えられてきたイメージの遊びこそ美術なんじゃないか――こんなことを考えながら、饒舌館長も夏の数時間を避暑気分で楽しませてもらいました。

2023年8月20日日曜日

『大英博物館マンガ展図録 マンガ!』12

 

僕は辻さんの影響を受けて――というよいも真似をして、そのころ評判だったマンガを少し読んでみました。結局手に取ったというだけで終ってしまいましたが、もし辻さんの感化をまったく受けなかったとしたら、60年代以降のマンガはもっと疎遠なものになっていたことでしょう。そしてこの分厚い『大英博物館マンガ展図録 マンガ!』を、通読することもなかったでしょう。

とはいえ、赤塚不二夫やつげ義春や白土三平は、長谷川町子や福井英一や杉浦茂のように、懐かしい!!という気持ちを起こさせてはくれないようです。

 ヤジ「今回もまた後期高齢者の回顧談だったな!!

2023年8月19日土曜日

『大英博物館マンガ展図録 マンガ!』11

 

『大英博物館マンガ展図録 マンガ!』を開くと、上村一夫と同時代の名前を知っている漫画家や作品がないわけじゃ~ありません。それは辻惟雄さんのお陰です。

日本絵画におけるプレイフルネス――遊戯性に着目した辻惟雄さんにとって、マンガはとても重要な研究対象でした。あるいはマンガが好きだったゆえに、重要な研究対象にされたのでしょうか() 

名著『日本美術の歴史』<補訂版>をひもとくと、終りの方に「マンガ、アニメの興隆」という一項があります。辻さんは「いまや文化の先端に躍り出た感のある分野」であるマンガとアニメを、日本美術史のなかに正しく位置づけるべく筆を進めています。実に6ページにもわたって!!

そこに強く感じられるのは、マンガ・アニメに対する真率なる愛であり、旺盛なる好奇心であり、アカデミズムに曇らされることのないビビッドな眼差しです。

2023年8月18日金曜日

『大英博物館マンガ展図録 マンガ!』10

 

上村一夫の『同棲時代と僕』は彼の一代記、いや、半代記と称すべきエッセー集です。読み捨てにしないで書架に収めてあるのは、「偉人友人葛飾北斎」という一文があり、いつか使ってやろうというスケベ根性のゆえです() もう一つ愉快なのは、「あだ名と先生」です。僕も学生以外から「先生」と呼ばれるわけですが、そのままにしているのは、上村一夫の先生綽名説によるのです。チョットあとから考えた理由のような気もしますが()

「先生と呼ばれる程馬鹿はなし」という言葉があるが、それは先生を意識している人の言葉であり、“先生”もあだ名の一つだと思えばなんでもない。現代では妻子ある先生が恋愛をする時代であり、先に生まれたというだけで、私は先生と呼ばれても何の苦痛も感じない。照れたりそう呼んでくれるなという人は、自意識が過剰なのではないだろうか。

2023年8月17日木曜日

『大英博物館マンガ展図録 マンガ!』9

 

大学を出て美術研究所に勤めるようになったころ、たまたま逢着して「これは天才だ」と深く心に刻まれた漫画家に上村一夫かみむらかずおがいます。そして不思議なことに、彼が横須賀生れというだけで、山口百恵のカウンターパートとして脳裏に焼きついたのでした。そのエッセー『同棲時代と僕』は今も書架にありますが、佳人薄命、早く亡くなってしまいました。神様は天才を早く自分の周りに集めたがっているのだとしか思えません。

しかし上村一夫も『同棲時代』も、『大英博物館マンガ展図録 マンガ!』にまったく出てきません。「ニコルさん、チョットおかしいじゃ~ありませんか!!」 


2023年8月16日水曜日

『大英博物館マンガ展図録 マンガ!』8

 

 子どものころ長谷川町子や福井英一や杉浦茂は、読むだけじゃ~ありませんでした。コピーして自分の作品集を作り、友だち同士で見せ合うんです。作品集といってもノートやスケッチブックではありません。新聞に入ってくる折り込み広告の裏を使いました。

今は両面刷りがほとんどですが、そのころ折り込み広告はたいてい裏白でした。それを袋とじにしてノートみたいにするのですが、ホチキスはまだ珍しく、大和糊でくっ付けたような気がします。しかし、漫画家になろうと真剣に思った畏友・山本勉さんのように、みずからストーリーを考えて描くことは絶えてなく、もっぱらコピーでしたね。やがて中学に入るころにはコピー熱も冷めて読むだけになり、そのうちマンガから離れていきました。

2023年8月15日火曜日

『大英博物館マンガ展図録 マンガ!』7

 



「日本の古本屋」にアクセスしてみたら、『幼年ブック』19579月増刊号付録の『猿飛佐助』や、『おもしろブック』連載分を単行本にした<おもしろ漫画文庫>の『続猿飛佐助』初版が出ていました。そのお値段たるや、杉浦茂が知ったらどんなギャグを考えるかな?

カタログではヒューゴ・フライさんの「グラフィック・ノベルの台頭とマンガ」に杉浦茂が登場します。しかし残念ながら、名前だけでイメージがありません。『RAW』に紹介されたという、杉浦茂の作品をぜひ見てみたかったなぁ!! 『RAW』というのは、1980年に創刊されて10年ほど続いた、アメリカの初期アンダーグラウンド・コミック雑誌だそうです。

2023年8月14日月曜日

『大英博物館マンガ展図録 マンガ!』6

 

このちくま文庫版巻末には、ロック・ミュージシャンのサエキけんぞうが「ロックを超える杉浦茂」という解説(??)を寄せています。それによると、1970年代初頭、赤塚不二夫は『漫画№1』という過激なマンガ月刊誌を編集出版、杉浦茂の「アップルジャム君」を載せていたそうです。

赤塚不二夫は杉浦茂を尊敬していたんです!! だからこそ『漫画№1』の巻頭にカラーで載せたんです!! 影響を受けたことは、改めて指摘するまでもないでしょう。この「アップルジャム君」というのは、僕が『おもしろブック』で見ていた「アップルジャム君」の続編だったのでしょう。

2023年8月13日日曜日

『大英博物館マンガ展図録 マンガ!』5

 

 ベストスリーの最後は、何といっても杉浦茂です。『おもしろブック』が家に届けられると、最初に開くページは杉浦茂の「アップルジャムくん」でした。それはナンセンス中のナンセンス、赤塚不二夫を最初に見たとき、「これって杉浦茂じゃないか!!」と思ったものでした。単行本の『猿飛佐助』や『モヒカン族の最後』も愛読書でした。

これを書いていたらいよいよ懐かしくなって、アマゾンで『猿飛佐助』をゲットしました。1995年のちくま文庫版ですが、ページを繰れば、猿飛佐助よろしく「デレン パッ」と70年前の美少年にソク変身です() 

2023年8月12日土曜日

『大英博物館マンガ展図録 マンガ!』4

 

 つぎに福井英一の「イガグリくん」ですね。カタログでは、ステファン・ボージャンさんが『冒険王』第6巻第5号付録『イガグリくん 天狗山の決戦』を紹介しています。そうなんです!! そのころ少年雑誌には、マンガの単行本が付録につくことがあったんです!! 

どっちが本誌でどっちが付録か分からないような、こんな号もありました。新年号になると「10大付録」とか「12大付録」などというものもありました。僕は集英社の『おもしろブック』派だったので、秋田書店の『冒険王』は友だちから借りて読みましたが……。

2023年8月11日金曜日

『大英博物館マンガ展図録 マンガ!』3


 マンガ――懐かしい思い出です。マンガは日本現代文化のきわめて重要な一ジャンルを形成しています。だからこそ、天下の大英博物館で特別展が企画されたんでしょう。そして大きな反響を呼んだんです。それにもかかわらず、単に懐かしい思い出というのは、美術史家として怠惰にして不勉強のそしりを免れませんが、やはり懐旧の情が先に立ってしまいます。

このカタログから「懐かしのベストスリー」を選べば、まず長谷川町子の『サザエさん』ですね。子どものころ、家では『朝日新聞』をとっていましたから、朝はまず『サザエさん』から始まります。姉妹社版単行本も何冊か家にありましたし、いまも『朝日』土曜日be版の「サザエさんをさがして」は欠かすことがありません。そのころ夕刊は根本進の「クリちゃん」で、毎日見ていたはずですが、なぜか記憶もおぼろです。

 

2023年8月10日木曜日

『大英博物館マンガ展図録 マンガ!』2

 

三省堂から出された 『大英博物館マンガ展図録 マンガ!』は、その英語原版の日本語翻訳カタログです。コシマキには次のように書かれています。

2019523()826()、世界最大の博物館のひとつ、大英博物館で開催された「Citi マンガ展」。近年、大英博物館で開催された中でも最も好評を博した企画展の図録、日本語版ついに刊行!

 刊行後すぐにニコルさんから頂戴してから、もう3年も経ってしまいました。先日しばらくぶりにニコルさんとお会いし、大英展のバージョンアップ版をアメリカで計画されているとお聞きし、遅ればせながらアップさせてもらうことにしました。けっして忘れていたわけじゃ~ありませんよ() 

2023年8月9日水曜日

『大英博物館マンガ展図録 マンガ!』1

ニコル・クーリッジ・ルーマニエール『大英博物館マンガ展図録 マンガ!』(三省堂 2020年)

 先日『荻生徂徠全詩』第2巻をアップし、ついでに『講談社まんが学術文庫』に収録された徂徠の名著『政談』を紹介しました。そして「ニコル・ルマニエル・クーリッジさん、今度『MANGA展』をやるときはゼッタイこれを加えてほしいなぁ!!」と呼びかけました。

マンガに興味のある方は先刻ご承知でしょうが、これまで「饒舌館長ブログ」にたびたび登場してもらっているニコルさんは、2019年、大英博物館のセインズベリー・エキシビション・ギャラリーで開催された「マンガ展」でキューレーションを担当、大センセーションを巻き起こした日本美術研究者です。エキシビション・キューレーション・センセーション――これも葛飾北斎ならぬ「3つのション」かな() 

2023年8月8日火曜日

日経「こころの玉手箱」10

しかし日本だって負けちゃ~いません。洒落たある飲み屋のトイレには、「急ぐとも心静かに手を添えて外にもらすな松茸の露」と水茎の跡もうるわしく書いてありました。さすが和歌の国日本だと、こちらの方は心底感心しました。

この和歌は詠み人知らずとされているようですが、一休禅師の詠であるという説を聞いたこともあります。作者はともかく、この「辻先生と行く敦煌の旅」の最中に、「松茸の露」のあとには「あわてしゃんすな そちゃけつの穴」と続くのだと教えてもらいました。誰から? それは有賀祥隆さんです。先に有賀さんから仏教美術について、朝夕たくさんのことを教えてもらったと書きましたが、決して専門分野には限らなかったんです()

 

2023年8月7日月曜日

日経「こころの玉手箱」9

 

 もう一つ思い出すのは……。初日の夕食はトランジットの時間を利用して、西安飛行場レストランでとりました。西安ビールで盛り上がり、終ってトイレに行くと、便器の前に「上前一小歩 文明一大歩」と書いたプレートが貼ってあります。「もう一歩チョット前へ それは中華文明の大なる一歩となる」というわけです。大躍進時代や文革時代における標語の伝統が、こんなところにも生きているんだなぁと妙に感心しました。

そのとき思い出したのは、ニューヨークのBYOレストランのトイレで見た Your Honest John is not so long as you expect という貼り紙でした。アメリカン・ジョークの傑作だと、これまた妙に感心したものでした。


2023年8月6日日曜日

日経「こころの玉手箱」8

 


一方風呂嫌いの僕は、その1週間シャワーを浴びず、もちろんバスタブにも浸かりませんでした。そもそも敦煌あたりは、9月でもカラカラに乾燥していますから、まったく問題ありませんでした。

ところが帰国すると、蒸し風呂みたいな残暑です。家に着くと即シャワーを浴びたのですが、ちょっとパンツ一丁でいたのが悪かったらしく、ひどい夏風邪をひいてしまいました。ようやく癒えたあと國華編輯会議で小林兄に会い、そのことを話すと一言――「シャワーでコーティングが取れちゃったんだよ」


2023年8月5日土曜日

日経「こころの玉手箱」7

 

 最終回は「中国・敦煌の『木の櫛』 旅の縁 蓬髪にぴったり」でした。これは今『國華』主幹をつとめている佐野みどりさんの敦煌みやげです。ことの発端は20059月はじめ、辻惟雄さんの古稀を記念し、教え子やファンが辻さんをお神輿にして敦煌・龍門・鞏県を訪ねた古跡巡りにありました。櫛との関係は日経新聞をご覧いただくとして、実に楽しい旅行でした。

とくに強く印象に残っているのは、有賀祥隆さんとずっとツインに泊まって、夕食のあと、日本仏教美術についてたくさん教えてもらい、また質問に答えてもらったことでした。有賀さんは必ず朝シャワーを浴びるので、そのあと朝食までの間も貴重な時間でした。

2023年8月4日金曜日

日経「こころの玉手箱」6

 

4回目は「中国で買った『花卉文碗』 ばら売りのコピー品に愛嬌」でした。あの天安門事件から7年後、2度目の北京日本学研究センターに講師として出向いたとき、王府井の工芸品店で求めたペアーの煎茶碗です。

明の時代、旧暦2月中旬のお節句「花朝」で使われた12ヶ月揃いの小碗ですが、ばら売りしていたので1月と12月を買ったんです。もちろんこれは民国まで下るコピーで、本来は煎茶碗ですが、僕にとってはあくまで酒杯、紹興酒にも日本酒にもよく合います。

実は7年ほど前、『國華清話会会報』に「わが愛する三点 ジャンク?で一杯」というエッセーを寄稿したときも、この「花卉文碗」に登場してもらいました。そのときは自分で撮ったピンボケ写真でしたが、今回はプロのパーフェクト・イメージ、完全に景徳鎮官窯のオリジナルに見えます。いや、写真のせいじゃなく、年とともに欲深くなっているせいかな?()

2023年8月3日木曜日

日経「こころの玉手箱」5

 

 3回目は「ドイツで手に入れた人形 美術品調査『事件』の思い出」でした。日本近代医学の父であるベルツ博士の日本絵画コレクションを、ハイデルベルク大学に調査に行ったとき建物に閉じ込められ、毎日参照していた澤田章の『日本画家辞典』を枕に、4階の調査室でゴロ寝をしたという間抜けな話でした。

翌朝6時過ぎに目が覚めたので、1階にあるトイレに下りていきました。するとちょうど鍵を開けて入ってきた清掃のおばさんと鉢合わせ――「キャ~~」。いるはずのない人間が、階段を下りてきたんです。しかもステテコ姿の変な東洋人です。驚くなという方が無理でしょう。ブロークン・イングリッシュで事情を説明し、ようやく解放してもらい、ふかふかベッドで仮眠をとるためホテルへ向かいました。早朝のハイデルベルクの街が、何と美しかったことでしょう。

2023年8月2日水曜日

日経「こころの玉手箱」4

 

 


 2回目は「歌手テレサ・テンのレコード 日本デビュー前からほれ込む」でした。1970年、台北・故宮博物院で開催された「中国古画討論会」に参加したとき、たまたま飲み屋で聞いた鄧麗君という歌手の声に心がふるえました。そこで最新LP1枚求めて帰国したら、その後彼女はテレサ・テンと名前を変えてブレーク、アジア最高の歌姫になったのでした――俺の音楽的センスもまんざらじゃ~ないだろうという自慢話です() 

テレサ・テンは1953年の生まれですから、今年古稀、70歳です。1995年、タイのチェンマイで42年の短い生涯を終えることがなかったら……。「テレサさん、そのうち僕も貴女あなたの所へ行きますから、是非カラオケで、できたら手つなぎデュエットで『つぐない』をお願いします」なんて言ったらセクハラになるのかな()

2023年8月1日火曜日

日経「こころの玉手箱」3

 

それまでは一生使うものと思い込んでいましたから、その前に「ぺんてる」0.92Bという替芯をたくさん買い込みました。しかし今年はじめ、それも残り数本になったので、逗子駅前の文章堂さんへ買いに出かけました。愛用してきた「ぺんてる」はなく、三菱鉛筆の「ユニ」となりましたが、0.92B36本で¥200でした。

ところが先の「ぺんてる」替芯のケースを見ると、18本¥100というラベルが貼ってあるじゃ~ありませんか。つまり、日本の物価は30年以上、まったく上がっていなかったんです!! どこの先進国もインフレに苦しむなか、誇るべき素晴らしい国――それが日本です!! しかしこれじゃ~、経済的に中国や韓国に追い上げられ、アメリカにはさらにリードされたのも仕方なかったんだなぁという感慨もわいてきたのでした。

出光美術館「復刻 開館記念展」2

本年は、皆様をこの展示室へお迎えする最後の 1 年となります。その幕開けを告げる本展は、 58 年前の開館記念展の出品作品と展示構成を意識しながら企画したものです。……開館記念展の会場を飾ったのは、仙厓( 1750 - 1837 )の書画、古唐津、中国の陶磁や青銅器、オリエントの...