2021年7月26日月曜日

徐寅・夏の詩3

 

それまで徐寅の詩で知っていたのは、植木久行さんの『唐詩歳時記』(講談社学術文庫)と黒川洋一ほか編『中国文学歳時記』(同朋舎)に採られる「初夏戯れに題す」だけでした。しかし、静嘉堂文庫の静かな閲覧室で一人『全唐詩』の拾い読みを始めると、これが饒舌館長好みの詩人だったんです。そして、あぁこんな優れた詩人がまだいたなんて、漢詩の世界は奥が深いなぁと改めて感じ入ったのでした。

とくに大好きな李賀の雰囲気に、通い合う詩が少なくなかったこともその理由ですが、おそらく徐寅は李賀から大きな影響を受けているのでしょう。もう盛夏となってしまいましたが、「初夏戯れに題す」を皮切りに、何首かをまたまたマイ戯訳で紹介させてもらうことにしたという次第です。

2021年7月25日日曜日

三菱一号館美術館「三菱の至宝展」26


 先日、ニコニコ美術館が夕方7時から「三菱の至宝展」を生中継してくれました。ナビゲーターは橋本麻里さんーーいまや20000人以上の美術ファンが見てくれる、いや、参加してくれるそうです。ぜひ一緒に……と誘われた饒舌館長は、第1室で『杜甫詩集』のところに来ると、いきなり「国破山河在 城春草木深……」と中国語の暗唱を音吐朗々、「渾欲不勝簪」のあと「たいていここで拍手が起こるものですが……」と毎度お馴染みのジョークで〆たのです。

すると間髪をおかず、ディレクターがもつPCのディスプレーに、「88888」「8888888888」といった数字が洪水のように流れ始めたではありませんか。まったく意味が分かりませんでしたが、これはパチパチパチという拍手を意味するとのこと、橋本さんが教えてくれました。チョッと前までは考えられないバーチャル美術の世界が、すでに日常になっていることを思い知らされた一夕でした。

2021年7月24日土曜日

三菱一号館美術館「三菱の至宝展」25

 


杜甫「嶽を望む」

  いかなる山か泰山は? 斉と魯の国 青く染め

  天が霊なる気を集め 北と南じゃ夜と昼

  湧く雲 見れば感動し 目を射るねぐらに帰る鳥

  いつか立つべし絶頂に 低き他山を一望せん

2021年7月23日金曜日

三菱一号館美術館「三菱の至宝展」24

 


実際に展示されているのは、そのあとの見開き2ページで、「嶽を望む」という五言古詩を読むことができます。これもさすが杜甫だと思わせる一首です。これは泰山をたたえた一首です。泰山は山東省にそびえる名山、五岳の長とされ、東に位置するので東岳ともいわれます。

1989年、北京日本学研究センター講師をつとめていたとき、ひとり夜行列車で、しかも硬座――つまり2等車で北京から江南に遊びに行ったことがあります。そのころ、北京から上海まで、汽車ではちょうど1日、24時間かかりました。21:10に北京駅を出発した汽車が、翌日の朝6時前、泰安駅に到着すると多くの乗客がぞろぞろと降りていきました。隣の人に訊くと、朝日を拝むためとのこと、泰山は朝日遥拝の名所でもあるそうです。そのときは僕もいつか登ってみようと思いましたが……。

2021年7月22日木曜日

三菱一号館美術館「三菱の至宝展」23

 

豊かな和漢の教養を身につけていた乾山は、もちろん杜甫を尊敬し、「杜甫詩集」をよく知っていて、とくにその第一首を選び、第8句「人をして深省を発せしむ」から、名前の「深省」を採ったにちがいありません。またまた独断と偏見かもしれませんが()、この五言古詩をマイ戯訳で……。

  今日遊覧の奉先寺 夜も宿泊許されて……

  北の谷から風の音 月光 林を照らしてる

  星座に迫る龍門山 眠る雲上 着物冷え

  目覚めりゃ聞こえる朝の鐘 深い感慨わいてくる

2021年7月21日水曜日

三菱一号館美術館「三菱の至宝展」22

 

カタログには「杜甫詩集」の最初のページが掲出されています。写っている詩は「龍門の奉先寺に遊ぶ」、全杜甫詩に通し番号をつけた定本ともいうべき下定雅弘編『杜甫全詩訳注』(講談社学術文庫)にしたがえば、0001にあたる五言古詩です。

辻惟雄さんが古希を迎えたとき、ファンが辻さんをオミコシにして「辻先生と行く敦煌・龍門の旅」を企画しました。かつて詳細をアップしたことがあるように思いますが……。この杜甫詩を読んでいると、そのときみんなで仰ぎ見た奉先寺洞の毘廬遮那仏が眼前に浮かんできます。

話は飛びますが、乾山焼で有名な京焼の陶工・尾形乾山は、はじめ「権平」という名前でした。しかしチョット品がないと思ったらしく、25歳のころ「深省」と改めたのですが、その典拠はこの杜甫詩だというのが私見です!!


2021年7月20日火曜日

三菱一号館美術館「三菱の至宝展」21

この張瑞図の「松山図」にちなんで、東洋文庫からの「僕の一点」は、第1室に展示される「集千家註批点杜工部詩集」を選ぶことにしましょう。ずいぶんむずかしい書名ですが、「集千家註批点」は副題みたいなもので、簡単にいえば「杜工部詩集」です。杜工部とはかの詩聖・杜甫のことですから、つまるところ「杜甫詩集」なんです。

 ただし中国・元の時代に出版された杜甫詩集を、南北朝時代の1368年に我が国で復刻した、いわゆる和刻本です。ブッチャケをいえば「海賊版」なんですが、もう653年も経っていて伝本も少ない貴重な本なので、だれも「海賊版」とはいわないだけです――まぁ時効にかかったみたいなものかな() 

徐寅・夏の詩3

  それまで徐寅の詩で知っていたのは、植木久行さんの『唐詩歳時記』(講談社学術文庫)と黒川洋一ほか編『中国文学歳時記』(同朋舎)に採られる「初夏戯れに題す」だけでした。しかし、静嘉堂文庫の静かな閲覧室で一人『全唐詩』の 拾い読みを始めると、これが饒舌館長好みの詩人だったんです。そ...