「僕の一点」は掛幅「文殊菩薩像」ですね。瀬谷さんは鎌倉時代までさかのぼる五髻騎獅文殊ごけいきしもんじゅ像の佳品と評価していますが、そのとおりだと思います。与謝蕪村筆「夜色楼台図」を所蔵していた実業家・武藤山治氏の旧蔵品だそうですが、何となく分かるような気がしました。
とくに興味深く感じたのは、この文殊さんが少年というか、子どものような顔つきを示していることでした。きりっとしたスゴクいい顔をしていますね。童子形の文殊菩薩は胎蔵界曼荼羅の文殊院に主尊として描かれているそうですから、起源はインドか中国にあって早くに完成していた図像だと思われます。
その後このような図像は稚児文殊ちごもんじゅと呼ばれるようになりますが、伝教大師最澄が将来したものともされているそうですから、これまた早くにわが国へもたらされていたのでしょう。ともかくも童子形の文殊菩薩は、日本で生れた図像ではなかったことになります。



