それは渡辺さんが評価したように、確かにすばらしい文明でしたが、また腰巻にあるように、「どこかもの悲しい」のです。川口松太郎は、「江戸っ子とは馬鹿の代名詞なり」といったそうですが、どこか響きあうものがあります。あるいは、知らないくせに懐かしいのです。
深夜読み終わって、ここに登場するたくさんの市井の人々は、やはり方便[たつき]も大変だったんだろうなぁという気持ちとともに、一人ひとりが血の通う人間として生きていることに、うらやましいなぁという感情を抱かずにはいられませんでした。このような人々によって、「逝きし世の面影」は――渡辺さんのいうある一つの文明は作られていたのです。僕は心をこめて彼らの霊に献杯せずにはいられませんでした(笑)
*ぜひ多くの方に『ニッポンチ!』をお読みいただきたいと思い、静嘉堂文庫美術館ミュージアム・ショップに置かせていただきました。現在開催中の「江戸のエナジー」展は2月7日まで、少しお休みをいただいて、2月20日から「岩崎家のお雛さま」展が始まります。ご興味のある方は、観覧のあとショップで『ニッポンチ!』を手にとってご覧ください。時節柄、よく手をアルコール消毒した上で……。