2021年1月31日日曜日

河治和香『ニッポンチ!』4

それは渡辺さんが評価したように、確かにすばらしい文明でしたが、また腰巻にあるように、「どこかもの悲しい」のです。川口松太郎は、「江戸っ子とは馬鹿の代名詞なり」といったそうですが、どこか響きあうものがあります。あるいは、知らないくせに懐かしいのです。

深夜読み終わって、ここに登場するたくさんの市井の人々は、やはり方便[たつき]も大変だったんだろうなぁという気持ちとともに、一人ひとりが血の通う人間として生きていることに、うらやましいなぁという感情を抱かずにはいられませんでした。このような人々によって、「逝きし世の面影」は――渡辺さんのいうある一つの文明は作られていたのです。僕は心をこめて彼らの霊に献杯せずにはいられませんでした()

 *ぜひ多くの方に『ニッポンチ!』をお読みいただきたいと思い、静嘉堂文庫美術館ミュージアム・ショップに置かせていただきました。現在開催中の「江戸のエナジー」展は27日まで、少しお休みをいただいて、220日から「岩崎家のお雛さま」展が始まります。ご興味のある方は、観覧のあとショップで『ニッポンチ!』を手にとってご覧ください。時節柄、よく手をアルコール消毒した上で……。

  

0 件のコメント:

コメントを投稿

静嘉堂文庫美術館「静嘉堂の重文・国宝・未来の国宝」3

  江戸時代中期に活躍した肉筆浮世絵師・宮川長春の筆になる絶品です。長春は尾張宮川村に生まれ、これを姓にしたと伝えられています。いつのころか長春は江戸に出て、菱川派や懐月堂派、さらに伝統的な土佐派をも学んで、もっぱら肉筆に創造の場を特化しました。やがて豊麗なる肉筆美人画様式をもっ...