2019年12月28日土曜日

栃木県立美術館「菊川京三の仕事」3


職人は、彫刻師は酒呑は居ないのに摺師は皆大酒呑で、十五日晦日の支払いに困り、着物まで取られて、裸で社に来た男も居りました。社では、ある期間職人の退職金として、毎月五円ずつ郵便貯金をしてやっていました。私は入りたてからすぐ模写をやらされましたが、初めは古びが出ずに苦労しました。ずっと社に住んでいたので、模写と版下を頼まれて殆どやりました。

 模写はずいぶん諸方へ出張してやりましたが、広島と厳島へ二週間の予定で出張したのに、二ヶ月以上かかったことがありました。先方が、今日も駄目明日も駄目で、なかなか仕事にかからせてくれず、社へ電報すると瀧先生は出来るまでやれというので、結局それだけかかってしまったのです。しかし苦労して出来上がった時は、凡てを忘れて嬉しかったことでした。見張の人をうまく追っ払って、ガラスを外して模写したこともあります。ガラス越しでは全然駄目です。

0 件のコメント:

コメントを投稿

渡辺浩『日本思想史と現在』6

  一般的なくくりでは比較思想史ということになるのかもしれませんが、渡辺さんの思考方法は、もっと能動的です。所与のものを単純に比較するのではありません。例えば纏足を論じながら、話はコルセットへ向うのですが、そこにはある必然がチャンと用意されているんです。起承転結というか、展開のさ...