2017年5月26日金曜日

NHKカルチャー日本美術史8


また私は、土偶が吊り下げられたであろう柱木からトーテム・ポールを想起したが、この点に関しても、すでに研究が行なわれていることを知ってうれしかった。それは谷川磐雄「石器時代宗教思想の一端」(1)(2)(『考古学雑誌』1345 19221923)で、わが国原始社会における動物信仰を通して、その基層に醸成されたトーテミズムの痕跡を摘出した論文であるという。

このほか、「甦りの世界観」や「土偶がない縄文世界」などの疑問、弥生時代に入って土偶が消滅した理由など、じつに興味深い問題がたくさん残されていることを原田氏から学んだ。土偶は奥が深いのだ。

そもそも拙論には、縄文草創期から晩期に至るクロノロジカル的視点がまったく欠落していた。原始美術を専門としない私には、如何せん手に余るが、不可避の問題であることはよく理解できた。しかしすべては、今後の考察に委ねることにしよう。

2017年5月25日木曜日

NHKカルチャー日本美術史7



 この拙論を私は、第4回国際文化フォーラムの思い出、つまりディスカッサントとして、キーノート・スピーカーの三輪嘉六先生に対し、「日本文化は東日本から東北から」と反論したことから書き出した。会場となった九州国立博物館の展示、「海の道、アジアの路」で見た土偶の東西比較をその証拠として持ち出したのだが、縄文遺跡の東高西低という分布状況がその前提となっていたことは、改めて指摘するまでもない。

ところがこのたび原田氏によって、現在のところ縄文草創期までさかのぼる唯一完形の土偶、言ってみれば現存最古の土偶は、三重県粥見井尻遺跡出土のものであることを教えられた。平成に入って間もなく発見された土偶で、それまで最古とされていた茨城県花輪台貝塚出土の早期の土偶をさらにさかのぼるという。私としてはいささか残念だが、東日本からも草創期の完形土偶が出土することを、祈る気持で待つことにしよう。

2017年5月24日水曜日

シングルモルト・スコッチウィスキー「カリラ 23年」


 ある外国人美術コレクターから頂戴した絶品です。「カリラ」のローマ字表記は”COAL ILA”――ラベルにそう書いてあります。COALはゲール語で海峡、ILAはアイラ島だそうです。アイラ島はスペイサイドと並ぶスコッチの本場です――ウィスキーファンから、「そんな分かり切ったことを、麗々しく書いたりするな!!」と怒られそうですが……。

日本ではラフロイグ、ボウモアが有名ですが、土屋守さんの『シングルモルトウィスキー大全』によると、このちっちゃな島に、9つも醸造所があるようです。これまたウィスキーファンなら常識に属することですが、アイラ島のスコッチはみなピーティです。

「カリラ 12年」はやったことがありますが、「23年」なんて初めてです。考えてみると、ほかのブランドのブレンディッドでも1回やったことがあるだけです。そもそも先の『大全』にも、18年があるとは書いてありますが、23年のことなど一言も触れられていません。

胸をときめかせてビロード張りの箱から取り出し、封を切り、ストレートで一口含んでみました。スモーキーフレーバーが口全体に広がるとともに、火矢が喉を突っ走ります。ものすごく強い!! ラベルを見ると54.6%と書いてあります。強いはずです。

オンザロックにし、グラスを回しながら氷を多めに溶かしつつやることにしました。土屋さんの「アイラモルトとしては比較的軽くドライだが、個性は強烈。スモーキーでピーティ。ピリッとした辛さが舌に残る」「加水をするとフレッシュでスィート」という評はまさに正鵠を射るものだと感じつつ、心行くまで堪能したことでした!?

NHKカルチャー日本美術史6



このような土偶懸垂説をはじめて唱えたのが誰か知らないが、土版については大野延太郎(雲外)が最初で、「土版と土偶の関係」(『東京人類学会雑誌』12131 1897)として発表されたという。土版とは、縄文晩期、おもに関東東北地方で作られた板状土製品である。携帯の便のために、土偶を簡略化した一種の護符と考えられているが、この定説も大野に始まるようだ。これは私にとってもきわめて重要な論文であるから、やや長文にわたるが、原田氏をそのまま引用する。

土版の性格を、その多くに懸垂用の孔がみられることから、これが「要スルニ一の携行品ナルガ如ク考」えられ、「何カ宗教上護身用或ハ符号ノモノナランカト推考セラルル」と指摘した。また土偶との関係については、挿図を示して「此ノ両図ヲ比較シ自ラ親密ノ関係アル事ヲ知ルベシ」と結ぶ。これは、土偶と土版のように、異種の異物間にも、文様の類似や系統を追うことで、その用途に類似性が指摘できる場合もあることを示した、最初の論文である。

2017年5月23日火曜日

NHKカルチャー日本美術史5



また「板状土偶」(縄文後期 青森県鳥井平4遺跡出土)では、「腕の表現はないが、胴体の上部が左右に張り出し、その部分には縦方向に貫通孔が穿たれていて、この土偶が懸垂できるようにもなっている」ことに注目している。

しかし、積極的には懸垂使用が認められない遺品もあるようだ。例えば「板状土偶」(縄文前期 岩手県塩ヶ森遺跡出土)について、「胴体にある円孔は、懸垂用とも考えられるが、あまり擦れた痕がある個体はなく、体部装飾の技法の一つなのかも知れない」としているのである。

なお有名な「東北のビーナス」(縄文中期 山形県西ノ前遺跡出土)の円孔に関しては、「顔面表現はなく、頭部の円孔に皮製などの仮面を被せたか、という意見もある」としている。懸垂使用は推定されていないようだ。

 

2017年5月22日月曜日

NHKカルチャー日本美術史4


私は多くを学ぶとともに、勝手に推定もしくは想像していたことが、すでに考古学の学問世界で指摘されていることを知った。また私見を再考する必要にも迫られた。これらに関しては、また改めて考えてみたいと念じているが、今は若干のメモを書き残すだけに止めよう。

 土偶は神あるいは精霊の象徴として、高い柱木に吊り下げられたのではないかと私は考えた。もちろんすべてではないが、たとえば祭祀などに際し、そのようにして祀られる場合も少なくなかったのだろうと推測した。この点に関し、原田氏は同様に懸垂の可能性を指摘している。

例えば「板状土偶」(縄文中期 青森県三内丸山遺跡出土)について、「後頭部には懸垂用のような一対の把手がつく」とする。「ハート形土偶」(縄文後期 福島県荒小路遺跡出土)では、「後頭部には複雑な突起が絡みあって、吊るすことができるような印象も与える」としている。

2017年5月21日日曜日

NHKカルチャー日本美術史3


 この「秋田の美術によせて 原始美術(2)(3)」は20101月に脱稿したが、編集の都合上、『秋田美術』46号と本47号に分載されることになった。その46号発行と相前後して、文化庁主任文化財調査官・原田昌幸氏の『土偶とその周辺』Ⅰ・Ⅱ(日本の美術526527 ぎょうせい 2010)が出版された。原田氏はすでに指摘した文化庁海外展「土偶」(THE POWER OF DOGU)と東京国立博物館特別展「国宝 土偶」を主導し、みごとな成功へと導いた研究者である。

「土偶に秘められた面白さを、考古学的な情報を主にさまざまな視点から眺めてみたい」という趣旨のもとに書き下ろされた本書は、現在望みうる最もすぐれた土偶関連単行図書であろう。啓蒙的でありながら学術的であり、実証的でありながら氏独自の新鮮な見解が打ち出されている。最新の情報を盛り込みながら、長い歴史をもつ土偶研究史への目配りもおろそかにはされていない。

 

NHKカルチャー日本美術史8

また私は、土偶が吊り下げられたであろう柱木からトーテム・ポールを想起したが、この点に関しても、すでに研究が行なわれていることを知ってうれしかった。それは谷川磐雄「石器時代宗教思想の一端」 (1)(2) (『考古学雑誌』 13 - 4 ・ 5   1922 ・ 1923 )...