2018年3月9日金曜日

渡辺京二『逝きし世の面影』10


彼(チェンバレン)はその好例として、英国の詩人エドウィン・アーノルドが1889(明治22)年に来日したとき、歓迎晩餐会で行ったスピーチが、日本の主要新聞の論説でこっぴどく叩かれた話を紹介している。アーノルドは日本を「地上で天国あるいは極楽にもっとも近づいている国だ」と賞讃し、「その景色は妖精のように優美で、その美術は絶妙であり、その神のようにやさしい性質はさらに美しく、その魅力的な態度、その礼儀正しさは、謙虚ではあるが卑屈に堕することなく、精巧であるが飾ることもない。これこそ日本を、人生を生甲斐あらしめるほとんどすべてのことにおいて、あらゆる他国より一段と高い地位に置くものである」と述べたのだが、翌朝の各紙の論説は、アーノルドが産業、政治、軍備における日本の進歩にいささかも触れず、もっぱら美術、風景、人びとのやさしさと礼儀などを賞めあげたのは、日本に対する一種の軽視であり侮蔑であると憤激したのである。

 最後に、ほとんどすべての欧米人が日本人最大の悪徳としてあげる飲酒についても、酒好き饒舌館長は触れずにおれません。さすがの渡辺さんもこれにはお手上げらしく、弁護や解釈はあきらめ、モースのユーモアに満ちた言葉を引いてお酒を、いや、お茶を濁しているのが愉快です。

日本人は酒に酔うと、アングロサクソンやアイルランド人、ことに後者が一般的に喧嘩をしたくなるのと違って、歌いたくなるらしい。 


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