2017年10月21日土曜日

美郷カレッジ「美は育み癒し健やかにする」3


大原美術館の歴史とコレクションの理念、子供教育やアーティスト・イン・レジデンスなど新しいプロジェクトのコンセプトから始まった大原さんのお話は格調高く、きわめて示唆的なものでした。僕も見習ってやろうとしたのですが、やはり地は隠せません。

静嘉堂文庫美術館のことを話しているうちに、いつもの館長おしゃべりトークになり、ついに例の「この俺に温ったかいのは便座だけ」まで飛び出しちゃいました。しかし、最後の盛大な拍手を聞きながら、やはりこれでよかったのだと、みずからうなずいたのでした。

終了後、僕が大好きな大正ロマンの画家・橘小夢[たちばな さゆめ]ゆかりの諏訪神社にお参りしました。小夢は6歳から10歳にかけ、お姉さんが養女となっていた諏訪神社に預けられました。この体験が、その後の小夢芸術に決定的影響を与えるところとなりました。やがて「日本のビアズリー」とたたえられ、妖しくエレガントな浪漫的感傷性をもって、一世を風靡することになったのです。

みずから立ち上げた夜華異相画房から最初に売り出し、発禁となった新版画「水魔」こそ、その代表作だといってよいでしょう。葛飾北斎からイメージを借りながら、小夢独自のロマンティズムを生み出しています。僕にとっては、東大時代、弥生門の前にある弥生美術館で触れて以来、心の片隅でちょっとセクシーな微光を発し続けている画家なんです。

去年、古巣の秋田県立近代美術館で開催された特別展「橘小夢とその時代――幻の画家、ふるさとに咲く」は、見る機会を逸してしまいましたが……。これを担当したキューレーターの奈良香さんが、鹿島美術財団から研究助成を受けて、小夢研究を進めています。こんなうれしいことはありません。もっと多くの人に、小夢の素晴らしさが分かってもらえる日の来ることを祈って、諏訪神社をあとにしました。

*本日、夜10時からテレビ東京「美の巨人たち」で、「奇跡の国宝”曜変天目”七色の彩 茶碗に映る宇宙の謎」が放映されます。宇宙の謎だけじゃなく、僕も映ります。もしカットされていなければ(!?)

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