さらに宇田敏彦さんの解説は、場面の数々を一つずつ実証しています。僕はこの「ほとんど落書」という見方に惹かれますね。明らかな政治批判ですよ。少なくとも江戸市民はそのように見なしたからこそ、ベストセラーになり、袋入りの上製本まで売り出されたのでしょう。それにしても恋川春町はよくも書いたり、蔦屋重三郎はよくも出したりと思わずにいられません。
とくに春町です。春町は駿河小島おじま藩松平家の家臣・倉橋家に入った養子、つまり武士だったからです。「恋川春町」も藩の上屋敷があった小石川春日町にちなむ戯作名だったんです。町人ならいざしらず、武士がこんなものを書けば、ヤバイと思わなかったのでしょうか。本書には天明8年(1788)刊と推定される3巻1冊袋入り本――もちろん蔦重版もあるそうですから、寛政改革も始まったばかりで、大したことはないだろうと高をくくったのでしょうか。そんなことはあり得ないと思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿