嵯峨天皇「内史貞主が『秋月歌』に和す」(続)
木の葉みな散る洞庭湖 暮れてしまった――秋はもう
夷狄いてき防御に出征の 夫つまは帰るの忘れたか?
こんな月夜に妾わたしだけ この高殿に座ってる
思いを胸に月みれば あぁ悲しみに耐え切れず
くさむら露にしとど濡れ 真夜中しだくコオロギと
明け方に吹く風に乗る 砧きぬたの声を聞いている
明るい月は年ごとに 清らな色を変えないが
これを眺める人だけが 年ごと白髪を増やしてく
竹 映る窓 人気ひとけなく 物音さみしく寒々し
晩秋――ものみな頼りなく 人影まばらな柳の門
仙薬 盗んで月界へ 逃げた姮娥こうがの真似できず
閨ねやから月を眺めては わびしい独り寝 恨んでる
*唐の閨怨詩はほとんど男の空想ですが、それをさらに日本の天皇が想像して詠むという、きわめてソフィストケートされたというか、爛熟の極みというか……。これも一種の本歌取りかな(笑)
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