2024年9月25日水曜日

出光美術館「物、ものを呼ぶ」15


 

しかも「村松物語絵巻」は、傑作「山中常盤物語絵巻」が出た大正14年の松平子爵家入札目録に一緒に載っているのです。明らかに「村松物語絵巻」も又兵衛工房の作品であり、それによく似る「江戸名所図屏風」も同じく又兵衛工房作と考えてよいことになります。しかしよく比較すると、形態や比例の感覚など異なる点も多く、ただちに又兵衛工房作と断じてしまうこともはばかられるのです。

これから先はあくまで僕の想像ですが、松平家から慶事に際して当代の繁栄振りを伝える「江戸名所図屏風」を依頼された又兵衛は、困惑してしまったのではないでしょうか。いまだ江戸に行ったことがなかったからです。又兵衛が徳川将軍からの招聘を受け、福井から江戸へ上るのは寛永14年、8年もあとのことなのです。

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