ホジソン夫人はこれらの蛇を実のところ殺してほしかったようですが、それはできませんでした。蛇はお寺の主でもあったからです。渡辺先生は、あの気味の悪い蛇とさえ共生していた「ある一つの文明」を、ホジソン夫人の体験をとおして語り始めたのです。続いてムカデの話に筆を進めた渡辺先生は、猫や犬や馬や牛の場合を取り上げ、次のように結論しています。
徳川期の日本人にとっても、動物はたしかに分別のない畜生だった。しかし同時に、彼らは自分たち人間をそれほど崇高で立派なものとは思っていなかった。人間は獣よりたしかに上の存在だろうけれど、キリスト教的秩序観の場合のように、それと質的に断絶してはいなかった。草木国土悉皆成仏という言葉があらわすように、人間は鳥や獣とおなじく生きとし生けるものの仲間だったのである。
0 件のコメント:
コメントを投稿