2021年12月24日金曜日

根津美術館「鈴木其一・夏秋渓流図屛風」10

  

 それはともかく翌天保12年の3月には、其一の描いた「迦陵頻図」の大絵馬が、吉原の佐野槌屋によって浅草寺へ奉納されています。このように其一と浅草寺には深いえにしがあったのですが、もちろんそれはもっと早く生まれていたにちがいありません。

しかしすでに述べたように、其一といえども画料を提供してくれるパトロンがいなければ、どうにもならないでしょう。そのパトロンこそ、大坂屋を屋号とする江戸日本橋の大きな蝋油問屋・松沢家だったのです。この屏風は、其一最高傑作の双璧をなす「朝顔図屏風」(メトロポリタン美術館蔵)とともに、東京美術倶楽部編『松沢家売立目録』(1918年)に載っているからです。

0 件のコメント:

コメントを投稿

皇居三の丸尚蔵館「近世の御所を飾った品々」5

もちろん、中世に入れば山上憶良の歌は忘れ去られ、画家や鑑賞者に意識されることなく、記憶の残滓が脳内のどこかに沈殿しているに過ぎなくなっていたことでしょう。 しかし、憶良の歌のDNAだけは伝えられていたように思われてなりません。例えば 俵屋宗達の傑作「松島図屏風」(フリーア美術館蔵...