2021年10月13日水曜日

群馬県立近代美術館「江戸と上毛を彩る画人たち」10


 しの木弘明著『金井烏洲』は、今回カタログ・エッセーを書くに当たって、はじめて読んだモノグラフです。しの木氏のライフワークだったにちがいなく、本当によく調査されています。多くのことを学びましたが、とくに烏洲がすぐれた漢詩人であったことに、深く心を動かされました。烏洲こそ関東南画を代表する詩画一致の画家だと確信した次第です。

菊池五山の『五山堂詩話』補遺第1巻にも著録されているとのこと、静嘉堂文庫にある天保版を見たところ、しの木氏が省略していたロマンティックな七言詩「七夕」も知ることができました。

五山は烏洲について「外面は骯髒[こうそう]だけれども内面は温藉[おんしゃ]である」とたたえています。「骯髒」を『諸橋大漢和辞典』に求めると、「直を好んで志を得ないさま」とありますから、直情径行にして周囲との折り合いが悪く、みずからの矜持にこたえるほどの高い評価も得られなかったのでしょう。温藉は心広く包容力があってやさしいという意味です。

 

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