2021年2月9日火曜日

小川敦生『美術の経済』8

小川さんが指摘するとおり、「オークションではたいていの場合、誰が売り、誰が買ったかについては明かにされない」のであって、この「無題」も例外ではなかったのでしょう。しかしそこに呼ばれた人たちは、みんな知っているのです。新しい所有者は何も言う必要がないのです。

このとき重要なのは、それが絵画であった、人類の発生とともに生れた悠久の歴史をほこる視覚芸術であったという点です。金の延べ棒や株券や土地の証文ではなかったという点です。所有者が何も言わなくても、「この所有者は高尚なる芸術の何たるかをよく理解しておられるのだ」と、「無題」自体が集まった人々に語りかけてくれるのです。「無題」の陰から、トゥオンブリーが語りかけてくれるのだと思います。

 

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