今日でも、迷った夢想家のような芸術家があって、中世に戻ることを願い、人々がおのおの自分の家に美しい装飾の一片を彫刻した時代、すべての村の教会がそれぞれの「聖母と幼な子」を持っていた時代、一ト口で言えば、芸術と人生と宗教とが手を取って進み、階級や職業によってきわどく引きはなされていなかった時代を憧憬れている。けれどもわれわれは時計を逆転させられない、たとえ分化によって何かを失っても得るところは多いのである。昔のオルケーストラの庭での無唱踊りは分化せざるものであり、それ自身の美があった。しかしその分化によって――芸術家と役者と観客との分離によって、われわれは実に劇[ドラマ]を得た。われわれは愛惜の眼を後方に向けてはならない。世界は新たな人生形式に向って前進する。そして今日の教会は明日の博物館とならねばならぬし、またなるべきである。
2018年12月4日火曜日
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渡辺浩『日本思想史と現在』12
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