2021年10月31日日曜日

サントリー美術館「刀剣」6

 


 日本美の特質を一言で表現するならば、簡潔性に尽きる、英語を使うならばシンプリシティーに尽きるというのが私見です。簡素にして潔いのです。単純にして清潔なのです。そして看過できないのは、どんなに複雑な様式や構成や技術でも、簡潔に見せることを尊ぶ美意識が生まれたことです。これをも含めて、日本美術の簡潔性と私は呼びたいのです。

もしこれが認められるならば、日本刀こそ凝縮された簡潔性そのものだといってよいでしょう。そのフォルムはきわめて簡潔です。それを中国の青龍刀や柳葉刀や太極剣と比べてみれば、説明の要はないでしょう。

しかしそれを鍛え上げる技術は、これまたきわめて複雑であり、その痕跡が刃文や鍛え、映り、匂い、沸<にえ>となって、日本刀の見所になっています。その技術習得はたいへん難しく、何十年もかかるといいます。

*中国の刀剣については、このブログの「中村真彦さんの太極剣と太極刀」をご参照くださいませ。

2021年10月30日土曜日

サントリー美術館「刀剣」5

 

 


 私は日本刀のカーブが、平仮名の美しいカーブと共鳴していることを、大変興味深く感じます。中国の直刀が漢字であるとすれば、日本刀は平仮名なのです。前者が益荒男[ますらお]ぶりであるとすれば、後者は手弱女[たおやめ]ぶりだといってもよいでしょう。

本来、刀は武士[もののふ]が身につける武具です。ですからこの特別展のサブタイトルも「もののふの心」となっているんです。そのほか律令官僚や公卿がつける場合もありましたが、いずれにせよ男性が身につけた武具を手弱女ぶりだというのは矛盾ですが、どうしても私にはそう感じられてしまうのです。

現代の手弱女たちが日本刀に興味をもち、それを愛するようになっている現象は、何と愉快なことでしょうか。それはともかく、日本美術を際立たせる美として「反り」があることは、近現代日本を代表する名建築家・谷口吉郎が早く指摘するとおりなのです。

2021年10月29日金曜日

サントリー美術館「刀剣」4

 

 


 中国の刀は本来直刀でした。その強い影響を受けたわが古墳時代や正倉院御物の刀が直刀であるのは、不思議でも何でもありません。その伝統が平安時代前期まで続いていたことを、「黒漆剣」は教えてくれます。しかし平安時代も後期を迎えると、徐々に日本刀は反り、つまり微妙なカーブを身に帯びるようになり、彎刀が誕生します。

それはきわめて高度な折り返し鍛錬法の技術が生み出す自然の美であったように思われます。あるいは騎馬戦が行われるようになった戦法の変化とも無関係ではないでしょう。 現在私たちが日本刀と聞くと、あの微妙な反りをまず思い浮かべますが、それを特徴とするフォルムが完成したのは、平安時代後期のことでした。まさに国風文化の時代でした。

日本刀は王朝文化のなかで完成されたといってもよいでしょう。実に興味深いことです。そして重要なことは、その微妙なカーブを美しいと感じる美意識が醸成されていった事実です。おそらく両者は因果の関係に結ばれているのでしょう。

2021年10月28日木曜日

サントリー美術館「刀剣」3

 

 2018年秋、京都国立博物館で「京のかたな 匠のわざと雅のこころ」が開かれました。翌年には、静嘉堂文庫美術館で「備前刀入門」を開催し、皆さまのお陰で大変な入館者数を記録することができました。以下はそのようなときにエントリーした私見をバージョンアップしたもので、あるいは今回の「僕の一点」を鑑賞するときの参考にでもなれば……と思って再録しますが、すでにお読みになった方は、スルーしていただいて結構です。

 日本刀は日本独自の武具です。世界に誇るべき美術であり、工芸です。もちろん、その源泉は中国に求めることができます。日本美術のオリジンは、多く中国に発するのですが、日本刀も例外ではありません。

 しかし、平安時代後期以降わが国で創り出された日本刀は、すでに日本独自の美に昇華されているといって過言ではないでしょう。 

2021年10月27日水曜日

サントリー美術館「刀剣」2

 

「僕の一点」は、「黒漆剣[くろうるしのつるぎ]」(京都・鞍馬寺蔵)ですね。鞍馬は牛若丸伝説で有名ですが、そこにある鞍馬寺は、宝亀元年(770)鑑真和尚のお弟子さんで有る鑑禎[がんちょう]上人が、毘沙門天を安置した草庵に住んだことに端を発します。

この「黒漆剣」は、蝦夷征伐で有名な坂上田村麻呂の愛刀であったと伝えられています。カタログ解説を担当した京都国立博物館・末兼俊彦さんによると、平安時代初期の9世紀にさかのぼる名刀で、「柄は下地に目の粗い布を張り、黒漆をかけた片手柄で、鞘は薄い革を下地とした上で表面には黒漆を塗る」とあります。ここから「黒漆剣」と呼ばれるようになったのでしょう。ただし鞘は経年劣化が進んでいるとのことで、今回は展示されていません。

「僕の一点」に選んだのは、これが平安時代初期の直刀だからです。弘仁貞観刀(!?)だからです。かつて日本刀に関する独断と偏見をアップしたことがありますが、この実証になくてはならない刀剣だからです。 

2021年10月26日火曜日

サントリー美術館「刀剣」1

サントリー美術館「刀剣 もののふの心」<1031日まで>

 「生活の中の美」を基本コンセプトとするサントリー美術館もついに軍門に下り、刀剣展を開催しています( ´艸`) ゲーム「刀剣乱舞」を契機として沸き起こった刀剣ブームのすごさを物語る<事件>です!! しかしさすがサントリー美術館――並みの刀剣展とはチョット違います。どこが違うのか、カタログから「ごあいさつ」の一部を引用しておきましょう。

 サントリー美術館が所蔵する狩野元信筆《酒伝童子絵巻》においては、武勇で名高い源頼光が率いる渡辺綱などの四天王が活躍します。今回の展示では、これらの刀剣にまつわる伝説についても、物語絵や浮世絵の武者絵によってその変遷をご覧いただきます。さらに、臨場感あふれる合戦絵巻や甲冑、刀装具によって戦いに赴く武家のいでたちをご覧いただくとともに、調馬や武術の鍛錬など、日々の暮らしぶりなどにも着目し、武家風俗を描く絵画や史料を展示します。 

2021年10月25日月曜日

群馬県立近代美術館「江戸と上毛を彩る画人たち」18

 昨日アップした「庚戌夏五月 梅影楼に留連すること連日 之れを賦して主人に贈る」は、烏洲絶唱の一首だと思いますが、戯訳を考えていると、マイ暗唱唐詩の一つである李白の七言絶句「客中行」がそれとなく浮かんできました。烏洲が『唐詩選』に採られるこの名吟を知っていたことは、改めて言うまでもないでしょう。かの入矢義高先生なら、ヤッパリ李白の方が良いなんておっしゃるかもしれませんが……()

  山東蘭陵 銘酒あり ウコンの香りもかぐわしき

  あぁ玉杯になみなみと 注げば輝く琥珀色

  ご主人!! 旅するこの俺を 酔わしておくれ存分に……

  そうすりゃ他郷もふるさとも なくなっちゃうさ区別など

 

富士山世界遺産センター「日本三霊山の砂防」5

さらに「逢へらくは玉の緒しけや恋ふらくは富士の高嶺に降る雪なすも」というバージョンもあるそうです。つまり「あの子と逢う間の短さは玉の緒ほどにも及ばないのに、別れて恋しいことは、富士の高嶺に降る雪のように絶え間ないよ」となりますが、これじゃ~本展示とまったく関係なき一首になってしま...