この長春筆「形見の駒図」は、「世継曽我」の虎御前と化粧坂の少将を、当世風の美人に移し変えて描いた見立て絵ということになります。先の山本九兵衛版『世継曽我』の挿絵も当世風美人になっているのですが、このような見立てが近松浄瑠璃の「世継曽我」においてすでに完成していることは実に興味深く感じられます。
虎御前と少将は藤末鎌初――藤原時代末・鎌倉時代初めの遊女ですが、「世継曽我」では江戸時代の遊女として登場するんです。草創期の歌舞伎を含めて、見立ては浮世絵よりも芸能において先行していて、芸能の趣向を後続の浮世絵が取り入れたことになります。浮世絵が芸能から大きな影響を受けたことは、すでによく知られるところですが、見立て絵の趣向は、直接摂取であったともいえるでしょう。

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