経世済民を旨とすべき政治的立場から、これを敗北と見なした吉澤忠先生は、かつて「田能村竹田の敗北」という名論文を『國華』に寄稿された。しかし一人の人間の生き方としてみれば、結局竹田は正しかったのだと考える私は、それに答えるアンサー・エッセーのような形で、先の論文を書いた。その竹田と同じ意味において、松浦武四郎も正しい選択を行なったのであり、人生における真の勝利者だったのではないだろうか。
企画展を開くにあたり、何冊か武四郎関係の本を読んだ。吉田武三氏の『松浦武四郎』(人物叢書)は、いまも定本の地位を失っていない。今回、お嬢さんの吉田安希さんと知り合えて、実にうれしかった。花崎皋平氏の『静かな大地 松浦武四郎とアイヌ民族』(岩波現代文庫)は、著者みずからの行き方と武四郎を重ね合わせて、読む人に猛省を促がし沈思黙考へと誘う。
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