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2019年7月18日木曜日

山種美術館「速水御舟」9


地隈を塗る時にも絹と紙とには大きな相違がある。さっと隈を塗ると絹の場合はその織物の繊維を伝って絵具がずんずんと拡がり走って行く、そして終いには端の方に濃い隈を作って了う。然し紙の場合は隈を引くと筆の当ったところに絵具が濃く滲み込んで、それを中心として或る程度まで絵具が薄く走って行く。だから筆の中に含ませてある絵具のデリケートな変化をそのままに表現して行く。ここに紙に描く面白い味が存在する のであ る。又紙には様々の種類があって、それが夫れぞれの特徴を持ち、従って描く時の絵具の付き方が違って行く。 それだけに描く場合はその紙の性質に対する心構えが必要である。

絹にも勿論、紙程の種類はないが、それでも多少の相違がある。普通一般に用いられているのは美濃絹である が、これを西陣の絹と比較するとどうしても品がおちる。一見すると美濃絹は何等のむらもなく綺麗に平盤に出来ているが、それだけに味が乏しい。西陣の絹を広げると、例えば和やかな湖水の沖に静かに動いている小波の如き味を感じる。然しこの絹の味を最後までよく生かせる程の作家は稀れであろうと思う。

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