2018年3月3日土曜日

渡辺京二『逝きし世の面影』4


以前、日本へのオマージュばかりを集めた本を読んだとき、そんなはずはないだろう、きっと来てみて日本が嫌いになったヨーロッパ人や、悪口をいったアメリカ人もいたにちがいないと思ったものでしたが、渡辺さんはそれも抜かりなく指摘しているんです。

渡辺さんのしなやかな感覚と深い教養に裏打ちされたバランス感覚に、ただただ頭が下がるばかりです。しかも渡辺さんは、アフターフォローを加え、あるいは彼らの批判や嫌悪に因ってきたる理由があったことを解き明かして、僕たちを救ってくれます。

 例えば、書記官として英国大使館に赴任したミットフォードは、父宛の手紙に、「私はどうしても日本人が好きになれません。中国人のほうがつき合うにはずっと気持ちのいい国民です」とか、江戸は風景の美しい街だけれども、壮麗な建造物は全然見当たらず、街並みじたい、家畜小屋が何列も並んでいるようなものだとか、はじめは悪態をついています。

しかし、ミットフォードは間もなく江戸に魅力を感じ、日本人に好感をもつようになりました。晩年に書かれた『回想録』は、バラ色の日本追想で彩られているそうです。

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