2018年3月1日木曜日

渡辺京二『逝きし世の面影』2


この場合、文化とは私のいう文明とほとんど同義である。幕末から明治初期に来日した欧米人は、当時の日本の文明が彼ら自身のそれとあまりにも異質なものであったために、おどろきの眼をもってその特質を記述せずにはおれなかった。しかも、これまた文化人類学の定石通り、彼らは異文化の発見を通じて、自分たちの属する西洋文明の特異性を自覚し、そのコードを相対化し反省することさえあった。もちろん彼らの自文化に対する自負は、いわゆる西欧中心主義なる用語が示すように強烈であった。その意味では、ごく少数の例外を除いて、彼らのうちで、日本文明に対する西洋文明の優越を心から信じないものはなかった。だが、それゆえにこそ、そういう強固な優越感と先入観にもかかわらず、彼らが当時の日本文明に讃嘆の言葉を惜しまず、進んで西欧文明の反省にまで及んだことに、われわれは強い感銘を受けずにはおれない。

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