2017年8月16日水曜日

静嘉堂文庫美術館「私の好きな茶道具ベスト10」19<伝狩野元信 猿曳棚>1


⑩伝狩野元信「猿曳棚」は、地袋に猿曳が描かれるところから、こう呼ばれてきました。猿曳は猿引とも書かれますが、猿回しのことです。この棚は室町後期の茶人で、侘び茶の基礎を固めて千利休に伝えた武野紹鴎から、安土桃山時代の茶人で、利休に学んだ古田織部へ、やがて仙台藩に茶頭として招聘された清水道閑へ贈られ、以後ずっと清水家に伝えられてきました。ハナムケとして織部がこの棚を選んだのは、道閑が「猿若」とも称していたことに引っ掛けたのでしょう。

織部が最初に仕えたのが、サルとあだ名された豊臣秀吉であったことも、おもしろく感じられます。織部は秀吉の死後隠居し、茶道三昧の生活を楽しんでいましたが、やがて茶匠としての名が高くなっていきました。そして関が原の戦いでは、徳川方に多大の功績があったため大名に復帰、徳川家の茶道師範と仰がれました。

ところが大坂夏の陣では陰謀を疑われて、ついには自刃することになったのです。豊臣家から徳川家に乗り換えたわけではありませんが、二君に仕えた織部は、この猿と秀吉の怨念にたたられたのかも? それはともかく、同じ年、家康から洛北鷹が峰に体よく追い払われた本阿弥光悦が、織部と親しい関係にあった事実も、とても興味深く感じられるのです。

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