2017年8月10日木曜日

静嘉堂文庫美術館「私の好きな茶道具ベスト10」13<羊遊斎 大棗>


 ⑥原羊遊斎「片輪車螺鈿蒔絵大棗[かたわぐるまらでんまきえおおなつめ]」は、羊遊斎の古典趣味がよく発揮された代表作です。僕が「私の好きな茶道具ベスト10」にこれを選んだのは、④交趾四方魚文香合と同じように、酒井抱一がらみでもあるのです。羊遊斎は抱一ととても親しい友人でした。

その抱一の下絵になる、いかにも19世紀的作品もあるのですが、この大棗はとても古典性が強いように思います。これだけを見ると、もっと時代の上がる作品のように誤認してしまいそうですが、それは制作背景と関係するものにちがいありません。

当時、茶人として有名な出雲松江藩主・松平不昧は、鎌倉時代の「片輪車螺鈿手箱」を所有していました。現在、東京国立博物館コレクションとなっている国宝手箱ですが、有名な平安時代の手箱とは別バージョンです。

羊遊斎はこの意匠をもとに作りました。しかも、不昧の正室、つまり本当の奥さんからの注文だったそうですから、羊遊斎はひどく緊張したにちがいありません。この大棗の古典性は、ここに由来するとみて間違いないでしょう。

1991年、僕は竹内順一さんと土屋良雄さんから誘われて、「在ニュージーランド日本美術調査」に参加したことがあります。このとき、ダニーデンのオルベストン・ハウスにあった羊遊斎作「江都遊里蒔絵盃」の発見が契機となって、1999年、五島美術館で空前絶後ともいうべき特別展「羊遊斎 江戸琳派の蒔絵師」が開かれました。もちろん静嘉堂の大棗も出陳されています。

そのとき名児耶明さんから求められ、「原羊遊斎と江戸文化人」というおしゃべりトークをやったことも懐かしい思い出です。その頃はまだ「おしゃべりトーク」なんて自称することもなく、もうちょっと真面目な講演だったようにも思いますが!?

 

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