一方、金剛界曼荼羅のもとである『金剛頂経』では、悟るための五相成身観が中心をなしています。それは仏と行者が一体化して、行者に本来そなわる仏の智慧を発見しようとする実践法です。即身成仏に近い考え方です。
その実践法は厳しく、きわめて雄渾なもののように感じられます。また智慧そのもの、つまり真理を明らかにしようとする宗教的叡智が前面に押し出されて、慈悲などは背後に隠れています。それは光明や男性と、つまり陽と結びつきやすいでしょう。
そもそも金剛とはダイアモンドのこと、強く硬いことのシンボルですから、これも男性的です。もちろん『大日経』においても、根本をなすのは仏の智慧ですが、そのためのプロセスとして女性と結びつきやすい慈悲が必要十分条件とされているのです。また『金剛頂経』においても、仏の慈悲が無視されているわけではないようですが、もっとも重視されているのは男性的ともいうべき五相成身観です。
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